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「テイラー・スウィフトのような『希望のアイコン』は次々と出現する」国際政治学の大家が喝破する“アメリカの楽観要因”

2024/05/16
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 中国でもゼロコロナ政策による習近平政権の圧政に対して、若年層を中心に抗議デモが起こった。反政府活動が厳しく取り締まられるため、何も書かれていないデモのプラカードを掲げた「白紙革命」である。今の中国がカメラとAIによる追跡システムという徹底した監視社会であるにもかかわらず、このような運動が起こったことは、習近平の中国もまた盤石ではないことを世界に示した。

 最後にアメリカである。2020年の大統領選でのバイデン勝利の後、2022年の中間選挙は、事前の世論調査では民主党は上下両院ともに大きく議席を失うと見られていた。しかし、人工妊娠中絶についてトランプに任命された保守派優位の連邦最高裁が「中絶は憲法で認められた女性の権利だ」とする従来の判断を覆したことに怒った若い世代の投票率が一挙に上がって民主党へと票が流れた。結果、中間選挙では民主党が僅差で上院をおさえ、今日に至っている。その旗振り役を演じた歌手のテイラー・スウィフトというアイコンの妙味も含めた、この間の世代的モメンタムこそがアメリカという衰退期に入った大国が、依然失っていない長期の楽観要因と言えよう。もちろん、すぐに「僭主」に煽られたMAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)を大合唱するトランプ支持派の流れを一変させることはできないだろう。しかし、もしあのとき民主党が敗れていたらバイデン政権は今頃、完全なレームダックに陥り、ウクライナ支援どころではなかったのだ。この点でも、アメリカが渡っている「歴史の吊り橋」に世界秩序の行方が懸かっているのである。

米歌手テイラー・スウィフト Ⓒ時事通信社

オーダービルディングの時代へ

 今年は世界的な選挙イヤーだが、振り返ってみれば、4年毎にやってくる米大統領選挙の年は、西側のメディアを中心に悪材料がこれでもかというほど出てくるのが常である。だが、次の画期である2028年の頃には、悪材料は出尽くしてしまっているという見立ても成立する。例えば、いま燃え盛っている米欧諸国の保守強硬派を中心とするポピュリズムの波は退潮に転じている可能性が高い。逆説的ながら“もしトラ”が現実となれば、とくにそうであろう。そして世代交代は進む。前述のテイラー・スウィフトのような「希望のアイコン」は次々と出現するだろう。

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 しかし、歴史は韻を踏む――。

 1930年代は世界大戦をもたらした。そしてその戦後の世界はまさに「天下大乱」どころではなかった。我々の渡っている「歴史の吊り橋」には、たしかにあの悲劇の繰り返しが十分ありえる。しかし、もう一つの歴史の韻もある。まさしくその1940年代末から50年代、アメリカが作り出した「冷戦」という名の安定した世界秩序。あるいは、ウィンストン・チャーチルの言葉だが、「賢明な覇権国の知恵」が発揮される「古き良きオーダービルディング(秩序再生)の時代」が、再びやってくる可能性はある。

 尽きることのない課題を背負いつつも、人々の活力があふれ出て、政治や経済だけでなく、文化・芸術さらには人々の生き方においても充実感や豊かさが甦る時代。

 人間の歴史には、そうした時代がたしかにあったのである。悲観だけでなく、そうした「長期の楽観」を持ちつつ、目の前の時代を生き抜いていくことが今、求められているのである。

本記事の全文は「文藝春秋」2024年4月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「世界大乱から2028年の希望へ」)。

「テイラー・スウィフトのような『希望のアイコン』は次々と出現する」国際政治学の大家が喝破する“アメリカの楽観要因”

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