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毎週末、日本に来る社長夫人

 たしかに、投資だけではなく、実際に日本を訪問する富裕層は増えている。「銀座でジャック・マーを見た」といった有名人目撃談をたびたび聞くが、取材を進めると冷静な反論があった。

東京にも家を構えたジャック・マー氏 ©時事通信社

「富裕層は以前から日本に投資していましたよ。確かに長期滞在ビザを取りたがる方が増えているのは最近の変化ですが」

 ブリジアンの夏川浩社長の指摘だ。同氏はもともと中国籍で、現在は日本国籍を取得している。中国政府、メディア、企業経営者との幅広い人脈を生かし、富裕層向け医療インバウンド事業を手がけている。医療インバウンドを手がける企業は無数にあるが、医療渡航支援企業正認証(AMTAC)を取得した企業はブリジアンを含め3社しかない。大物芸能人や大企業経営者など、“本物”の富裕層を顧客に持つ。

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 中国人富裕層の対日投資は何も昨日今日始まったわけではない。転機となったのは安倍政権だ。アベノミクスによる円安で日本の資産が割安になり、また、観光立国政策により富裕層はマルチビザを取得できるようになったため、入国のハードルも下がった。北京・東京のフライト時間は3時間半程度、中国国内旅行とたいして時間は変わらない。2019年に取材した大連市在住の社長夫人は毎週末通っているというほど日本にどっぷりはまっていた。

「中国人富裕層にとって安心感やサービスの良さが日本の魅力です。医療でも、病院の設備だけなら中国のほうが良いぐらい。それでも日本の医療を求めるのは丁寧さやサービスがあるからです」(夏川社長)

 日本を気に入ってセカンドハウスを購入した富裕層は多い。マンションだけではなく、温泉旅館を購入するのもちょっとしたブームになったほど。それでも長期滞在ビザまでは不要と考えられていたのがコロナ禍でムードが変わった。国境が閉ざされるという経験を経て、いざという時の保険のために海外にずっと住める身分を持っておこうという考えが広がったのだとか。ただ、その拠点は何も日本が一番人気というわけではない。英投資コンサルティング企業ヘンリー・アンド・パートナーズの報告書「二〇二四年ヘンリー・プライベート・ウェルス移民リポート」は中国から流出する富裕層は1万5200人に達すると予測しているが、日本に流入する富裕層は中国人以外も含めて400人に過ぎない。シンガポール(3500人)、米国(3800人)、カナダ(3200人)という、既存の人気移住先とは雲泥の差だ。日本は大本命ではなく、現時点では新たな選択肢にすぎない。