文春オンライン

炎上を乗り越えて、それでも「ひとり」で書く理由

山本一郎×井上理 対談「個人で情報を発信するということ」【前編】

note

エゴサーチをするか、しないか

井上 炎上というのは、じつははかなりいいことなんですよね。それだけ多くの人に読んでもらえて影響を与えているわけだし。何も起こらないとやりがいも感じないだろうなと思ってまして。

徳力 ちなみにコメント欄が荒れるという炎上文化を作ったおひとりが山本さんのような気がしますが(笑)。

山本 まぁ古き良き匿名掲示板文化ですよね。人間、肩書アリの実名ではなかなか本音は語れないが、匿名ならある程度いろんなことが言えてしまう。私の場合、話が合わない場合もあるから他の記事の書き手さんとはあまり交流しないし、エゴサーチもしない。自分が書いたものがリツイートされたって読まないですよ。気にしない。エゴサーチしたところで「山本一郎」ですよ。どんだけ他人が引っかかるのかって話です。

ADVERTISEMENT

 

徳力 でも山本さん、Facebookのポストに、文春オンラインの記事だけ「無事にランクインしました」って毎回報告されてるのって、すごく意外なんですけど。

基本的にあやふやなものを書くと死ぬんです。確実に

山本 記事を読んだうちの家内や家族からランキングに入ってる、入ってないって逐一メールが届くんですよ(会場爆笑)。それから、うちの父親が唯一読んでる週刊誌が文春なんです。だから文春のランキングに入ってると、「頑張ってるじゃないか」って認めてくれる。

徳力 わかります。僕もヤフトピに出たときだけは妻に報告します。家族や親に認めてもらうというのは、たしかにちょっと別の文脈ですよね。文春オンラインは家族向けなわけですか。

山本 いや、基本的に文春さんは多面的なんですよ。ヤフーニュースとは明らかに違う。たとえば不倫の話をヤフーとかに載せるとぶっ殺されるわけです。

井上 ぶっ殺されるって、誰に?

 

山本 単純に言うと編集部に。ヤフーニュースには、読んだひとが行動を変えるような、あるいはそのひと自身の問題をいかに解決するかみたいな情報を発信して欲しいという明確なポリシーがあるので、「コタツ」(取材なしで書く、コラム的な執筆)であっても「思います」的な記事の書き手は確実に消えていく。媒体の特徴と業界内のファクトをきちんとつかんだうえで、専門性のツボを押さえて書くことが必須ですね。基本的にあやふやなものを書くと死ぬんです。確実に。

徳力 文春さんは、ヤフーとどうちがうんですか?

山本 同じ社会時評でも切りかたをちょっと変えてあげるとちゃんと読んでもらえるところ。ただ、これは自分にとっても挑戦なんです。コラムって、読まれる総量が決まっていて、同じようなひとが同じ媒体に3人いたら、1人だけ読んだらおなかいっぱいですよね。そういう部分で「コタツ」って、非常に消耗しちゃうんですよね。

後編に続く)

 

写真=平松市聖/文藝春秋

やまもと・いちろう/1973年東京都生まれ。作家、個人投資家。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わりつつ、介護と子育てと投資と研究に人生を捧げている。

いのうえ・おさむ/1974年静岡県生まれ。ジャーナリスト。日経BP社『日経ビジネス』『日経ビジネスオンライン』で電機・IT業界などを担当。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式』『BUZZ革命』。

とくりき・もとひこ/アジャイルメディア・ネットワーク株式会社代表取締役社長。ブロガー。NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。

炎上を乗り越えて、それでも「ひとり」で書く理由

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー