太平洋中部に位置し、33の環礁からなるキリバス共和国。上空から見た環礁は南海に浮かぶ楽園であり、地球上に残された最も美しい風景の一つだ。キリバスの人々は、ここで自然と向き合いながら2000年以上にわたって暮らしてきた。しかし降り立つと、気候変動がもたらした激しい爪痕を目にする。海面上昇により海岸線は激しく浸食され、国土は消滅の危機に瀕していた。
キリバスの人口は約13万人。無人島を除く国土の総面積は日本の対馬とほぼ同じだが、細長く連なる島々で構成されるため、世界有数の排他的経済水域を持つ。また、島には旧日本軍の砲台が残されており、戦前にはここに多くの日本人と韓国人が駐留していたことも知った。
日本ユニセフ協会の現地視察のリポートを写真で紹介しながらお届けする。
将来、海面上昇は最大60.2センチを予測
首都のあるタラワ島で標高が一番高い場所を示す看板。わずか3メートルしかない。国連諸機関がまとめた報告書によると、2080年には2000年と比べて最大60.2センチの海面上昇が予測されるという。島は細長い環礁で、最も横幅が広い場所でも約200メートルほどである。一部の海岸線はすでに大きく浸食されており、井戸水の塩水化などさまざまな問題が起きていた。
気候変動の要因とされる温室効果ガスのキリバスの排出量は、世界で下から3番目であり、全体の0.0002%に過ぎない。ちなみに現在のキリバスの最大の支援国は中国であり、世界の温室効果ガス排出量の30%以上を占めている。
何世代にもわたって住んできた土地も失われ
夕暮れの海で漁をする島民たち。広大な排他的経済水域を持つキリバスは、諸外国からの漁業権による収入が国家予算の大半を占めている。沖合には日本や中国などの大型漁船が多数停泊していた。領海は世界有数のマグロの漁場だったが、近年海水温の上昇による影響で、マグロの種類によっては生息域の変化が見られる、という話も聞かれた。
また、現在のキリバスには耕地がほとんどなく、農作物のほとんどを輸入に頼っている。商店には缶詰や冷凍食品が並び、物価は体感的には日本とさほど変わらない。現在では新たな試みとして、中国人スタッフ(China Aid)による農業指導も行われている。
ベケニベウ西小学校の副校長を務めるブエナ・リモンさん(56)。彼女の故郷はタラワ島から飛行機で20分ほどのマラケイ島にあるが、海岸沿いにあった実家は海面上昇の影響で海に飲み込まれ、家族は移住を余儀なくされた。キリバスの人々は家族や土地に対する結びつきが大変強く、墓も敷地内に建てられる。何世代にもわたって住んできた土地が失われたことを話しながら、彼女は涙が止まらなかった。
海面上昇が切迫した問題となる中で、前政権ではフィジーへの移住政策も進められていたが、現政権では中止されている。親戚や知人がすでに移住した人もいるが、生まれ育った地を離れたくない人が多い。