「そこをなんとかお願いします。うまくいったらあなたの機械、たくさん買いますから」
そう頭を下げ、何度も何度も頼み込んだ。5~6軒の食品工場と機械メーカー3社を訪ね、ようやく貸してくれる1軒の機械メーカーと出会った。そのメーカーの担当者は親日家で、「日本人」ということで信用してくれた。
「『しょうがねえな』と文句を言われながらも、機械メーカー工場の外にある一角を使わせてもらい、試作品作りを始めました。その時は、まだ成功するかも機械を購入するかも分からなかったんですけど……」
世界唯一の製造方法にたどり着く
それから毎日、機械メーカーの工場へ通った。薄暗い早朝から日が沈むまで。そもそも機械メーカーの工場では食品を扱わない。その場所に、カツオを持ち込み新品の機械を使わせてもらう。気まずかった。機械メーカーで働く従業員たちの視線を感じながらも、和田さんはひとり、試作に没頭した。頭の中で描いてきたベンゾピレンを出さないかつお節の製造プロセスを、形にしていく作業を繰り返す。
開始から2カ月後、試作品ができた。厳しい検査で知られるドイツの食品分析機関「ユーロフィン」へ提出。結果は、ベンゾピレン“ゼロ”と出た。
「やった! これならいける」。2014年6月、世界唯一となる、ベンゾピレンを発生させない新たなかつお節の製造方法を完成させた。
試作で使用した機械も新たに購入し、和田さんの計画通りに物事は進んでいた。あとはポーランドの新工場の完成を待つのみ。
しかし、ここに大きな落とし穴が潜んでいた。
「EU圏内での工場建設における規制があるのですが、国によって受けとり方が違ったんです。ポーランド保健省は、かなりチェックが厳しかった。例えば、英語で書かれた表記では『衛生的な排水溝をつけること』と比較的ざっくりしたものが多かったのですが、ポーランドの保健省は『排水溝はオールステンレスでつけること』などと細かく要求されました」