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その頃には、アジアからいくつかのかつお節業者がヨーロッパへ進出していたが、2008年からヨーロッパ市場を開拓し知名度も高く質で勝負していた「和田久」にはどこ吹く風。注文は増え続け、生産が追いつかなくなり、2020年1月にひとまわり大きな工場へ引っ越した。その頃には、従業員も18人に増えていた。

「さあ、借金返すぞ」と、意気込んだ矢先。新型コロナウイルスのパンデミックが発生した。

売り上げがゼロ、家庭向けの商品で食いつなぐ

2020年4月、売り上げはゼロになった。

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従業員2人を残し、政府の補助金制度を使って一旦16人を解雇して様子を見ることにした。スペインでは同月、パンデミックによるロックダウンが開始。レストランはすべて休業になり、その状況が2カ月続いた。

レストランが稼働しない、ということは、業務用のかつお節の注文が1つも入らないということだ。和田さんは、「この状況でできることはなんだろう」と考えた。

「注文がないからって家にいると、ストレスで頭がおかしくなりそうだったんで、工場に出て魚を切ってました」

従業員2人と和田さんの3人体制で家庭向けのかつお節を製造し、工場からの直売を始めた。SNSで告知して注文が入るも、売り上げはすずめの涙ほど……。だが、何もしないよりはいい。

スペイン在住の筆者もロックダウン中に、かつお節を注文したうちのひとりだ。当時は日本へ一時帰国することもままならなかったため、40グラムのかつお節を5袋と日本の和田久が売っている日本茶を購入した。日本が恋しくなっていたため、和田久の取り組みにはずいぶん救われた記憶がある。

「足で稼ぐ営業」に救われる

スペイン全土で警戒事態宣言が発令され、街中が静まりかえった5月。ドイツの卸売業者がスーパーマーケットに卸す家庭用のかつお節を大量に注文してくれた。パンデミックの前にドイツの食品展示会で営業した際に、取引が決まった業者だった。月売上、約3万7000ユーロ(約600万円)。ほっとした。