日本のかつお節をヨーロッパに広めた日本人男性がいる。東京・築地の老舗かつお節店「和田久」の3代目社長・和田祐幸さんは2008年に渡欧。まだ「未知の食材」だったが、地道に販路を広げ、いまでは家庭でもかつお節が使われるようになった。どうやってかつお節を広めたのか。スペイン在住ライター・きえフェルナンデスさんが和田さんに取材した――。

ヨーロッパにかつお節を広めた日本人

数年前までヨーロッパで存在すら知られていなかったかつお節が近年、高級レストランだけでなく、ヨーロッパの一般家庭にも浸透しつつある。

仕掛け人は和田祐幸(さちゆき)さん。東京・築地にあるかつお節の老舗「和田久」の3代目社長だ。日本の伝統食材・かつお節がヨーロッパで輸入禁止食品に指定されているのはご存じだろうか。理由は、とある発がん性物質。それゆえ、欧州でかつお節の存在は知られていなかった。

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筆者撮影 「和田久」3代目社長、和田祐幸(さちゆき)さん。スペインのかつお節工場にて - 筆者撮影

和田さんは、独自の手法でEUの一般食品法規則に適応したかつお節を開発。業界で初めてヨーロッパに工場を建て、かつお節市場を切り開いてきた。

料理界のアカデミー賞と称される「世界のベスト・レストラン50」で5度、世界1位に輝いたデンマークの「noma(ノーマ)」。スペイン・バスクにあるミシュラン2つ星の名店「Mugaritz(ムガリッツ)」。17年連続で星を獲得している「銀座小十」「銀座奥田」の料理人、奥田透氏が開いたパリの高級日本食レストラン「OKUDA」――。

こうした有名店がこぞって愛用しているのが、スペイン産「和田久」のかつお節だ。

「和田久のかつお節は深いニュアンスとスモーキーな味を表現するのになくてはならない食材になった」。そう語るのは、スペインの名店「マルハ・リモン(Maruja Limon)」のオーナーシェフ、ラファ・センテーノさんだ。9年間和田久のかつお節を愛用している。

イギリスにある英国王室御用達の高級スーパー「ウエイトローズ(Waitrose)」では、和田久のかつお節で取っただけのだし汁「DASHI」を販売。今では一般家庭用としても広く使用されるようになった。