これからかかる教育費が出せるのかも分からない。国境を越えて2拠点生活をする家計はいまでもぎりぎりだ。母と子どもの世話をし、家のローンも抱えるルナのためにエルバンはいつも月10万円は仕送りしている。しかし、自分の家賃や生活費も払わねばならない上、韓国では寒さが厳しい冬に仕事が減り、収入が半減する。ローンで買った日本の家には住める見通しもないのだ。

 国境を隔てて「分断」されながらも、年に2回はアユミを抱きしめられる。こんな暮らしが間もなく終わることもエルバンは知っている。

「韓国で働ける期間はあと1年ぐらいで終わる。韓国でまでオーバーステイ(超過滞在)になることはできん」

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 エルバンは「冬の夜とかアパートの壁といっぱいしゃべって眠れんまま夜を過ごすこと、ようある」と打ち明ける。「アユミと会えんくなる日が来るんか」。そう考えると「胸がかきむしられる気がする」。そんな夜には思いはいつも、あの日のことに向かっていく。

人生を狂わせた事件

 ……2010年、22歳だったエルバンは、一緒に1ヵ月間にわたる内装の仕事をやったにもかかわらず、報酬の分け前を払おうとしない日本人の男性の居宅で、口論していた。

「なんで約束破るんですか」。抗議するエルバンに相手は言った。

「おまえみたいな外国人に払ってもしょうがないだろ」

 この言葉にエルバンは激高した。相手はナイフを取り出して牽制した。エルバンが奪うと、相手は阻止しようと素手でナイフをつかんだ。エルバンは相手を殴り、現金をつかんで逃げた。相手は軽傷を負い、エルバンは「強盗致傷」で逮捕された……。

「まったく、バカだった。頭の回っていない若いヤツのやること。相手の家に押しかけていくなんて。そして金をつかむなんて。ものすごく反省しとる」

 エルバンは絞り出す。