もう少し突っ込んだ論争を期待していたのに、終わってみるとなんだか肩透かしを食った印象が強い総裁選討論会。

 メディアが盛り上がらない討論会を「消化試合」と報じたのも無理はない。どの討論会も政策の違いがよくわからない、という以上に、総裁選を戦うという対立姿勢が感覚的にはっきり捉えにくいのだ。そこで計3回行われた討論会における安倍晋三首相と石破茂元幹事長の仕草や表情から、見えてきたものについて分析してみた。

討論会のテンションはおのずと低く感じられた

 まず二人に共通していたのは、相手や相手の主張に対する反応の少なさだ。あらかじめ、何をどう論じるのか予想できたという事情もあるだろうが、相手の主張に対して関心が低いのだ。表情の変化や頷いたり首を振ったりといった頭の動きが少ないため、聞いているのかいないのか、賛成なのか反対なのか、見ているだけではわかりにくい。

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 おまけに石破氏は口調が重く、声も低いスピーチスタイル。その上、両者とも相手を巻きこもうとする動作も、仕草や表情での反応や感情の動きも見られないため、討論会のテンションはおのずと低く感じられた。

9月14日に行われた自民党青年局・女性局主催の公開討論会 ©AFLO

 互いに質問する場面では、首相が石破氏に向って話しかけたのに対し、石破氏は会場や司会者の方を向いて答え、首相の方をほとんど見ない。そのため首相の方が積極的に働きかけているように見受けられた。この傾向は、安倍首相が向って右、石破氏が左の席に配置された自民党青年局・女性局主催の討論会とニコニコ動画による討論会で顕著だった。

 おそらく両者とも、相手が自分の右側にいる方が話しやすいのだろう。人には利き手だけでなく利き目があり、向きやすい方向、話しやすい方向がある。お互い向き合うのではなく、ほぼ前を向いて討論する場合、どちら側に相手がいるかによって討論のしやすさやアピール性は大きく変わる。

石破氏がニヤリと笑った瞬間

 それでも、石破氏が時おり見せた仕草は興味深かった。

 日本記者クラブ主催の討論会、「一強体制で風通しが悪いのでは」と問われた首相が、「私はまったくそう思っていない」と発言したのに対し、石破氏はニヤリと笑って首相の方を向いて顎を上げ、含み笑いをしながら質問者を見ていた。

 経済政策に関する質問では、来年の消費税の引き上げ、軽減税率も行うと首相が語った時は、目をぎゅっと瞑って顔をしかめた。これには反対なのだろう。プーチン大統領による突然の平和条約発言について、首相が「意欲は示された」と発言した時は、首を傾げて何かをつぶやき、目をぎゅっと瞑った。北方領土問題は「私が働きかけているからできている」と説明した首相に対し、大きなため息もついていた。

©AFLO

 総裁選に出るのは、安倍首相の何がよくないのかという主旨の問いに「同じ自民党ですから、方向性が違うはずがない」「やり方が方法論として異なる」と歯切れのよい答えが返らない。何がよくないのか、どこが違うと思っているのか、言葉でなくてもはっきりと仕草で示すことはできたはずだ。そうすることで問題意識も論点も見えやすくなっただろう。