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「ピンポンはやめよう」安倍首相とプーチンの言葉から北方領土交渉の進展を探る

安倍首相「22回首脳会談を重ねてきたが、プーチンの主張は変わらない」

2018/11/17

波紋を呼んだプーチン「前提条件なし」発言

ウラジミール・プーチン ロシア大統領
「年末までに前提条件なしで平和条約を締結しよう」

YOMIURI ONLINE 9月12日

©共同通信社

 今年9月12日、ロシアのウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」の全体会合でのプーチン大統領の発言。この提案は、北方領土問題の解決を棚上げし、平和条約の締結を先行させようとしたものと見られていた(後に自ら棚上げを否定)。

 プーチン氏はこのときも日ソ共同宣言に触れ、「単に署名されただけでなく、日本の国会でもソ連の最高会議でも承認された。その後、日本側が実施を拒否した」と述べていた(日本経済新聞電子版 9月14日)。北方4島の帰属問題の解決を繰り返し訴える日本を牽制したものだろう。

安倍晋三 首相
22回首脳会談を重ねてきたが、プーチンの主張は変わらない。日ソ共同宣言は義務だと言い続けている」
『週刊文春』9月27日号

 こちらは「前提条件なしで」というプーチン提案を聞いた直後に安倍首相が漏らした言葉。先にも記したとおり、日ソ共同宣言には歯舞・色丹の2島のことは明記されているが、国後・択捉両島については「大戦の結果、ソ連領となった」と協議に応じていない。プーチン氏が国後・択捉両島を返還する気がまったくないということがわかる。

『週刊文春』9月27日号は、「首相の本音は二島返還で十分というもの」という官邸関係者の声を紹介している。「島民も四島返還は望んでいないし、全面積の7%とはいえ、二島返還で日本の領海は広がる。共同経済活動を進められれば、双方のメリットも大きい」。これが安倍首相の考えなのだという。時事通信も「2島は確実に取り戻す、ということだ」「択捉、国後にも人が住んでいる。返すわけがない」という政府関係者の声を報じている(11月15日)。

「前提条件なしで」という発言の直前にプーチン氏は「シンゾウがアプローチを変えようと提案した」と語っていた(朝日新聞デジタル 9月13日)。首脳会談を重ねた結果、プーチン氏の考えが変わらないことに気づいた安倍首相が、これまでの「4島返還」から「2島返還」へアプローチを変えたのだろう。

「内向けのごまかし」はいつまで続くのか

安倍晋三 首相
「戦後
70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つ」
日本経済新聞 11月14日

©文藝春秋

 北方領土問題解決に向けて強い意欲を示した安倍首相。ロシア政治に詳しい上智大学の上野俊彦教授は「今回、安倍総理が一歩踏み込んで、日ソ共同宣言を基礎に、というプーチン大統領の考えに合意したことは、少なくとも、日本側がこれまでの立場に必ずしも固執しない、という妥協の可能性を示すシグナルである」とコメントしている(スプートニク日本 11月15日)。

 作家で元外務省主席分析官の佐藤優氏は「日本側がその二島の引き渡しでいいと言うなら明日にでも平和条約に調印できるじゃないか、というのがプーチン大統領のウラジオストク提案の意味」と解説した上で、日本側は政策の転換が必要だという考えを示している。「外向けには一島でも二島でも領土問題を解決できると合意したにもかかわらず、内向けには従来の四島一括返還の立場にまだこだわっているかのように擬装している」安倍政権の「ごまかし」をやめる必要があるというのだ(BUSINESSES INSIDER JAPAN 11月13日)。

 大前研一氏は安倍首相の外交手腕を評価しつつ、「日本政府と外務省は国民に1度頭を下げて詫びなければいけないと思う。なぜなら『北方領土はわが国固有の領土』などとナショナリズムを煽る誤ったプロパガンダで国民世論を先導してきたからだ」と説く(プレジデントオンライン 10月29日)。

 産経新聞は「『四島の帰属問題を解決して平和条約締結』という日本側の従来の主張をプーチン氏に了承させた意義は大きい」と報じた同日、「北方領土交渉 『56年宣言』基礎は危うい 四島返還の原則を揺るがすな」という社説を掲載した(11月16日)。北方領土問題に「終止符を打つ」という安倍首相の決意の足を一番引っ張るのは、こうした主張なのかもしれない。