北朝鮮へのカネの払い方が問題だ
6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談は、非常に大きな成果があるものでした。「実りのない会談だった」とする向きもあるようですが、そうではないと私は考えています。トランプ大統領と金正恩国務委員会委員長(朝鮮労働党委員長)が、事前に想像された以上に個人的な信頼関係を作ることができたことは、今後のアジア情勢を見る上で鍵となるでしょう。
会談によって戦争の危機が当面なくなったことは間違いありません。朝鮮半島で戦争が勃発した場合、日本が巻き込まれるのは必至でした。あまり知られていませんが、日本には朝鮮戦争時から朝鮮国連軍が常駐しています。朝鮮国連軍と地位協定が結ばれ、日本は有事の際に後方支援を担当することになるのです。北朝鮮のミサイルが横田基地や佐世保基地、嘉手納基地などを狙って飛んでくる可能性もありました。その場合、数百人から数万人の一般市民の死傷者が出たかもしれないのです。それを当面は回避できたことだけでも、日本にとっても意義があったと考えるべきです。
一方で日本が強く求めていた拉致問題に関しては、非常に逆説的なことが起こってしまいました。日本はこれまでトランプを経由して、北朝鮮に日本の立場を伝えていました。ところが、トランプと金正恩の波長が合い過ぎた。仲良くなったのだから、日本に都合が良いと考えるのは早計です。今後、むしろ北朝鮮の方が、日本との交渉を優位に進めるためトランプをカードとして使うかもしれないのです。
拉致被害者に関して、日本側が納得できなかったり信憑性がない回答を北朝鮮がしてきた場合、日朝のダイレクトな2国間交渉ならば、事前折衝の段階で拒否することができます。ところが、トランプが間に入ったことでこれが崩れるかもしれません。その回答について金正恩が「あなたから渡してもらえないか」と頼んで、トランプが「わかった。渡しておこう」などと答えたらどうするのか。安倍首相が受け取りを拒否したら、「オレが信用する金正恩をお前は信用しないのか。つまりはオレを信用してないのか」となってしまいます。
拉致問題でトランプに仲介を頼んでいたことが、トランプと金正恩の急接近でかえって仇となってしまったのです。だからこそ今、安倍首相は慌ててトランプを介さず、日朝で直接交渉をしようと動いているのです。
平和条約に向けて動き始めた
では今後の米朝交渉は、どのような展開が予想されるのでしょうか。さまざまな憶測が流れていますが、2人が署名した共同声明を虚心坦懐に読むことこそが理解への近道です。残念ながら、今回の共同声明の全文を掲載した日本の主要紙はわずかでしたが、「外交は文書がすべて」です。この種の外交文書に基本的なことは、すべて書かれているのです。
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source : 文藝春秋 2018年08月号