■開催趣旨
ようやく新型コロナウイルスとの共存の兆しが見え、ビジネスが復調していく中、営業スタイルは「対面」から「非対面」へ、「経験と勘」から「データ基点」へと大きく変化している。
コロナ禍以前より「働き方改革」「生産性の向上」への関心は高まりをみせており、その変化は加速し、新しい形として定着してきている。リモートであっても、効率的かつ効果的な営業が可能であることを実証している企業も多く、デジタルを活用した営業活動への移行が定着していくと予想されている。
しかしながら、営業部門のデジタル化には課題も多い。大きな成果を出す企業がある一方で「デジタルツールを導入したけれども効果が出ない」「部門内のコミュニケーションがうまく取れていない」「成功体験や失敗の共有がうまくできておらず人材や組織が育っていない」「環境や顧客の変化に適応できない」「データを有機的に活用できていない」「属人化に危機感を覚えている」など改革の難しさを実感している企業も少なくない。
顧客の行動は変わったが、その変化に対応できず接戦を落とす、自ら行動を起こせず失注といった機会も少なくないのではないか。
あくまでもデジタル化は「手段」であって「目的」ではない。営業を改革していく中で、何を達成したいのか、何を変えたいのかを見据え、全社一丸となって共有し、行動変容を促しながら勝ちパターンの仕組みづくりや、個人や組織の力を引き出す仕掛けづくりに取り組むことが不可欠となっている。
本カンファレンスでは「自ら動く、接戦で負けない、営業変革の組織的・科学的アプローチ 」がテーマ。意識改革を通じパフォーマンスを向上させた成長企業の実践者の講演、顧客の変化の先を読み行動変容を促すデジタルツールの活用事例紹介、人材育成などプロフェッショナルの講演を通じ、その主題の考察を行った。
■基調講演
ニュータイプの時代
株式会社ライプニッツ代表取締役 独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
『ニュータイプの時代』著者
山口 周氏
電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。(株)中川政七商店社外取締役、(株)モバイルファクトリー社外取締役。
これからの時代に求められる「ニュータイプ」の思考・行動様式について話をしたい。営業を考える時そして企業には、以下の3つの項目が重要と考える。矢印の左がオールドタイプ、右がニュータイプだ。
(1) 正解を出す⇒問題を提起する
(2) 顧客に応える⇒社会に応える
(3) 役に立つ⇒意味がある
世界のビジネスの現場では、「問題の希少化と正解のコモディティ化」が起こっている。生活上の普遍的な問題、切実な問題自体が少なくなってきた令和の時代にあっては、(1)問題を提起する能力が必要だ。今、気候変動や少子高齢化といった問題は確かに存在するが、実は多くの人にとっては他人事であり、ビジネスには結びつきにくい。
例えば携帯電話。2007年当時、日本メーカーは顧客の要望を徹底的に聞きそれらに正確に応えて製品を作ったために同質化、コモディティ化した。顧客がかつて使ったことがあるもの以上のもの、知らないものが作れなくなった。そんな時にアップルは、顧客の声を聞かず、自分たちが提案・提起したい「iPhone」を市場に送り出し、あっという間に市場を席巻。現在はシェア6割を占める。その一方、日本の携帯電話産業は事実上消滅した。
営業を考えるにあたり、顧客の要望をつぶさに聞きそれに応えることが強いビジネスを作るかどうか、それが果たして“顧客志向”なのか、は考え直すべき。21世紀の顧客志向とは「顧客を魅了する、顧客の人生のクオリティを上げる」ことであり、顧客にとって本当に良いもの、必要なものは何かを考え、顧客に驚きやときめきを届けることを目指すべきだ。顧客の御用聞き、顧客の奴隷になることが顧客志向なのではない。人間関係と同じで「愛」や「共感」が重要なのだ。
現代は、ありたい姿が描けないと“問題”を生み出すことができない。顧客が不本意ながら受け入れている、要望は表に出てきていない問題を企業側が見つけてあげて、顧客や社会に対して問題提起し、解決策を実行してはじめて売上と利益が生まれる。先述した、(2)社会に応える=「ソーシャルシフト」である。
イケア、テスラ、パタゴニア、グーグル、アップルなどが行っている、存在感のあるビジネスのビジョンや仮想敵には“顧客ニーズ”という概念が希薄だ。ビジョンは独善的ですらあるが、社会的なメッセージを発し、それに共感・触発された人が顧客になっていった。例えば、環境に配慮した素材を使い、部品を自分で修理・交換することで長く使えるスマートフォンを販売しているオランダのFAIRPHONEや、自動車生産工場の風力発電利用などの親環境性能をアピールし「意味の形成・意味の競争」を推進するドイツの高級車ブランドの取り組みには注目すべきだ。
Z世代など若い世代を中心に、パーソナルなアジェンダよりソーシャルなアジェンダが個人の(製品の)選択理由になってきている。“新種の欲望”の台頭に企業は適応できるか? 「エシカル消費やミニマル消費において、自己利益は抑制されているわけではなく、むしろ社会・環境への配慮が積極的に自己利益に内部化されている」(哲学者ケイト・ソパーの言葉)。メガトレンドによる価値観の変化を踏まえ、ビジネスを考える必要がある。
最後に(3)意味がある。「利便性の飽和と意味の希少化」が起こっている。ヴィンテージカー、レコードもそうだが、便利ではなくても意味があるものが一番高く売れる。高級車、音楽を聴く、写真を撮る、部屋をあたためる……どのジャンルでも役に立つけれど意味がない製品が最も安価なのが現状で、意味がある製品に高い付加価値が認められている。
便利さを極めても価格はもう上げられない。しかも、「役に立つ」は収斂するが、「意味がある」は発散する。例えば、コンビニの棚を見ると文房具は大抵1アイテム1種類。しかし、タバコは200種類ある。ワイン、音楽、文学などの嗜好品も多様かつ高単価で、その市場は便利で役立つものに比べブルーオーシャンである。受け手にとっての価値が飛躍的に上がるのがイノベーションだから、「意味のイノベーション」で単価を上げる、あるいは顧客に訴求することを考えるべきだ。
デザインとテクノロジーでイノベーションが実現すると巷間言われる。しかし、それらは「コピーに弱い」という弱点がある。どのようにしてもコピーできないのが「意味のポジショニング」だ。一例を引けばアップルは創業時のテレビCMでコンピュータの便利さやデザインについて一切言及していない。顧客と企業の関係性を転換させる「意味」の生起は、味方が同じ/世界観が同じ/敵が同じ、の3パターンである。営業の現場ではある程度仕方がないが、広告・広報では自己紹介はせずこの3ポイントを表現すべき。先述のイケア、テスラなどの企業もそれを実行している。
「偉大なブランドは、自分自身についてではなく、自分が愛しているものについて語る」(広告会社TBWA Chiat DayのクリエイティブディレクターLee Clowの言葉)
(1)問題を提起する (2)社会に応える (3)意味がある、側すなわちニュータイプでありたい。
■特別講演(1)
僕たちの営業チームのつくりかた
~自分ごと化と対話で解き放とう~
Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)学部長
伊藤 羊一氏
日本興業銀行、プラスを経て2015年よりヤフー。現在Zアカデミア学長として次世代リーダー開発を行うほか社外でもリーダー開発を行う。21年4月武蔵野大学アントレプレナーシップ学部を開設、学部長就任。代表著作『1分で話せ』。
僕たちの営業チームをどうマネジメントするか。マネージ(manage)とは“管理すること”ではなく「何とかする」こと。マネージャーとは「何とかする人」で、単なる役割であり、チームの力を最大化し、プロセスを明快にして導き、ゴールを設定してチームに共有してそこに導く存在だ。マネージャーは安全・安心な職場を構築し、個人の才能と情熱を解き放つことでチームの力を最大化できる。
大切なのは「1対1で話すこと=1on1 Meeting」。メンバーは成果を出すために日々努力し多くの悩みや課題を抱えている。考え、話し、気づき、それを習慣にすることでメンバーは成果を出し、成長する。
1on1 Meetingとは、マネージャーがメンバーのために、定期的に時間を割き、メンバーの話に耳を傾けることを通して、目標達成と成長を支援する場。メンバーが話したいことをテーマにし/メンバーの振り返りを促進し/マネージャーがメンバーを理解しサポートするための時間である。
1on1はマネージャーが話す時間ではなく、聴く時間である。たくさん話してもらうために、姿勢/表情/うなずき/返事/質問には工夫をし、気を配りたい。メンバーは経験する⇒振り返る⇒教訓を引き出す(気づく)⇒実践する、の経験学習サイクルで成長する。メンバーには行動を振り返ってもらい、気づきを引き出してもらわなければならない。そのためには、相手に質問を通じて自発的行動を促す“コーチング”や、観察結果を伝えることを通じて周囲にどう見えているかを知ってもらい自発的行動を促す“フィードバック”が必要だ。
営業とは、How?⇒Where?⇒Why?⇒When?/What?を繰り返し、顧客の課題を解決する仕事である。顧客の話を引き出し、沢山しゃべってもらい、その中から課題を見出し解決策を提示し顧客企業の成長につなげるのが営業。それを、メンバーにも行う=1on1 Meetingを行うことでメンバーも成長し、モチベーションが上がり、営業成績が向上していくようになる。
繰り返すが1on1 Meetingとは、マネジャーがメンバーのために、定期的に時間を割き、メンバーの話に耳を傾けることを通して、目標達成と成長を支援する場だ。
・振り返り⇒気づきが成長の源泉
・メンバーがそれを行うための時間(考えてもらう)
・あんまり教えない(コーチングとフィードバック)
・次の行動につなげる
以上を意識して、営業チームの構築に努めてほしい。メンバーにも“対顧客”の場合と全く同様に真摯に向き合う。顧客が大事で多忙だからといってメンバーをないがしろにしてはならない。上記を徹底すれば営業チームの成績は向上するはずである。
■課題解決講演(2)
全社一丸となって実現したSansanのデータドリブン営業への変革
Sansan株式会社
Sansan Unit チーフプロダクトマーケティングマネジャー
久永 航氏
大学卒業後、IT業界で10年強、SI、海外プロダクトマーケティング、クラウドサービス立上げなどを経験した後、2009年Sansanへ入社。ソリューション営業、カスタマーサクセス部長を経て、2015年にCIOとして社内のDXを推進。2018年から新規DX事業立ち上げに従事するとともに、顧客のDX推進を支援、21年6月より現職。
営業DXサービス「Sansan」を提供する弊社は、これまでさまざまな企業の営業力強化に向き合ってきたが、同時に弊社自身の営業組織改善にも取り組んできた。
近年デジタル化の進行によって、顧客の購買プロセスが大きく変化し、従来の営業手法では大きな効果を出しづらくなっている。営業力の強化に必要な要素は、個人のスキルから「チーム・組織でのデータ活用」に変化しており、成果を出す営業組織には、データに基づいて顧客の状況に合わせたアクションを行う「データドリブン営業」が求められるようになっている。
しかし、実際にデータドリブン営業へ変革していくのは簡単なことではない。弊社の調べでは、顧客データを扱う約9割の担当者は何らかの課題を抱えていることが分かっている。
2007年創業の自社の例を引く。2016年頃、従業員数が200名を超えたあたりから、社内の分業化が進み、部署をまたいだ社内の情報共有に支障をきたし始めていた。そこで、部門をまたいで顧客の情報を全社で共有できるデータベースの構築を開始した。顧客企業ごとのデータを集約したダッシュボードを作成し、案件・リード単位でも詳細なデータを閲覧可能にした。データベースを活用し、全社一丸で顧客に向き合う体制に変革したのである。そのデータベース構築に大きく貢献したのが、弊社が提供する営業DXサービス「Sansan」と、顧客データを正規化・統合する「Sansan Data Hub」である。
Sansanは、企業情報にあらゆる接点情報を組み合わせることで、データドリブン営業を実現し、営業力を強化できるデータベースへと進化を遂げている。加えてSansan Data Hubにより、SFA/CRM/MA上に散在している顧客データを整理・統合(名寄せ・正規化、リッチ化など)し、全社的なデータ活用につなげることができる。私たちはSansan、Sansan Data Hubを最大限に活用し、営業活動の成果を最大化させてきた。
◎まとめ
・Sansanが考えるデータドリブンとは、最新かつ正確な情報が担保されたデータ基盤に、全部署・全社員がアクセスでき、データを基に判断しアクションに移せること。
・Sansanはデータドリブン営業を実現するために、名刺を軸にデータを正規化・リッチ化し、全社員で共有できるデータベースを構築した。
・データドリブン営業の取り組みは、Sansanというプラットフォームに顧客情報をきちんと取り込み続けたからこそ、実現することができた。
※上記でご説明したサービスの資料は下記リンク先からダウンロードいただけます。
・データ統合からマーケティングを加速させる「Sansan Data Hub」
■課題解決講演(3)
営業人材変革の要諦「セールスイネーブルメント」
~ データドリブンで実現する継続的な成果創出の仕組み ~
株式会社R-Square & Company
代表取締役社長
山下 貴宏氏
日本ヒューレット・パッカードにて法人営業。船井総合研究所、マーサージャパンを経て人事制度設計、組織人材開発のコンサルティングに従事。その後、セールスフォース・ドットコムにてセールス・イネーブルメント本部長、グローバルトップの営業生産性を実現。2019年、セールスイネーブルメント特化企業R-Square & Companyを設立。イネーブルメント分野の日本での第一人者として講演実績多数。
Enablementとは「~ができるようになる」の意。「セールスイネーブルメント」とは、人の成長を通じて、持続的な営業成果を創出する仕組み(づくり)のこと、営業が成果が出せるようになることだ。セールスイネーブルメントは一部のトップセールスに依存した売上構成を解消し、大部分の営業が売れる状態を仕組み化し、組織的な目標達成の再現性を高める。海外では先行して市場が発展し、日本でも成功事例が増え、認知も拡大しつつある。
営業の行動変容を促す基本的な枠組みは、期待される営業の「成果=アウトプット」を起点に「行動=プロセス」と「知識・スキル=インプット」をつなぐこと。
ただし、営業部門や人事部門の旧来の取り組みの多くは行動変容につながっていない。その理由は、例えば成果起点で育成施策がプランされていなかったり、トレーニング自体に現場感がなかったり、各部門で個別最適の施策展開になっていて必ずしも一貫したプログラムになっていなかったりするためだ。
セールスイネーブルメントで目指すのは、営業成果/行動/知識・スキルを、営業成果に向けて一気通貫させること、テクノロジーを活用しつつ、最終的にデータ検証までを含めて全体としてPDCAサイクルを実現させることである。
例えばCCCMKホールディングスは、SFA×イネーブルメントを通じた営業組織改革で、昨対比125%の成長を実現。営業の強み・弱みを把握(アセスメント)⇒営業に必要なスキルを研修で強化(スキルアップ研修)⇒研修で学んだことを商談で実践(商談)のサイクルを作って回す「営業大改革」を実行したのである。
※詳細な事例紹介はこちら
CCCマーケティング株式会社 |セールスイネーブルメント事例Enablement App
同社の行動変容につながるロジック、カギになるのが、行動変容後の期待行動に必要なスキル体系をまとめた当社ツールの「Enablementスキルマップ」だ。
当社ではアセスメント結果を通じてスキルレベルを可視化し、行動変容につながる実践的な育成プログラムを提供していく。商談データとアセスメントデータを組み合わせて、営業強化施策の検討に活用できる。
成果につながる人材育成“セールスイネーブルメント”をアプリケーションで実現する、Enablement App(クラウドサービス)の導入を検討いただければ幸いだ。
■特別講演
100年企業の挑戦‐“DX時代のデジタルセールス&マーケティング”
~ 21世紀型営業スキルと行動変容に必要なマーケティング・マインド ~
横河電機株式会社
常務執行役員 マーケティング本部本部長CMO 博士(技術経営)
阿部 剛士氏
1985年、現インテル(株)に入社。インテル・アーキテクチャ技術本部本部長、マーケティング本部本部長、技術開発・製造技術本部長を歴任。2009年以降、取締役、取締役 副社長、取締役 兼 副社長執行役員に就任。16年、横河電機(株)に入社し、R&D、M&A、知財、新事業開拓、事業計画、標準化戦略、オープンイノベーション、工業デザインなどを傘下にマーケティング本部を統括。常務執行役員 マーケティング本部本部長 CMOとして現在に至る。
◎文化大革命:「見つけるから見つけてもらうへ!」
S&MX(Sales & Marketing Transformation)-営業&マーケティングのDX
日本企業営業には8つの課題があった。今日は「営業対応時間の不足」、営業効率性に言及する。日本企業の営業ROI=粗利(売上高総利益率÷営業コスト)はG7の中で最下位だ。営業担当者の時間配分では、顧客関連の活動(営業準備など)にかける時間は、グローバルが35%であるのに対し日本企業は55%。一方、顧客への営業活動に割く時間はグローバルの50~55%に対し、日本企業は10~25%である(出所:SFDC 2021)。
営業が本来の業務に手を回せておらず、本来業務である営業活動自体もじつは顧客に価値を感じられていない、また、営業活動についてはコロナ禍を機に顧客にとって価値の低い訪問は淘汰されていく可能性が高い、という調査結果がある。同時に、コロナ禍を機に顧客の購買行動も一部デジタルシフトしており、営業モデルを転換するチャンスといえる。
営業として価値ある領域は収斂されると想定され、そこ=コンサルティング型営業への転換が必要だ。コンサルティング型で求められる営業人材は、従来型と全く対極の特性が求められ、もはや従来型とは別人種である。今、顧客に一段と寄り添う営業活動が求められている。
また、米国のB2B業界では、顧客も自らデジタル上で情報収集し、価格よりも顧客体験を重視して購買意志決定をするようになってきている。外部に問い合わせる前に自社の購買プロセスが完了している割合が65%に達している。顧客の購買ステージにおいて、営業活動が影響を及ぼす割合が減少しているのだ。初期の認知/興味喚起/検索、までにいっそう注力しなければならない。
プロセス内すべてを把握し、顧客の変化に対応することにより売上を最大化する「インサイドセールス」の役割が重要だ。YOKOGAWAでは、(1)複雑なプロセスの簡素化 (2)パーソナライズされたカタログ・製品&サービス・価格・納期 (3)顧客との継続した関係(特に見込み客のファン化)に取り組んでいる。
(1) 関連。接点間の「つなぎ」がカスタマーエクスペリエンス(CX)を毀損する。企業は「部門最適」に務めるが、部門を超えた最適化は行われない。顧客は「全体最適」を求める。
YOKOGAWAは、EA(Enterprise Architecture)for Data Integrationをシンプルなものにし、化石化していたホームページ(ウェブサイト)もデジタルコンテンツを柱に改修開始した。また、ブランド・アーキテクチャに基づくブランドの整理とデザイン・コンテンツの一新にも着手した。最も大変だったのがプロダクトロゴやブランド名の整理。800以上あったものを「OpreX」を中心に体系立てて設計し直し整理した。その結果、2021年のホームページのアクセス数は、14年比で約3倍強になった。
(2) 関連。顧客の分断されたサービス体験を引き起こす、各部門のサイロ化は避けなければならない。顧客が欲しているのはソリューションであり、個別のプロダクトやサービスには基本的に興味がない。当社の非常に多数の製品・商品やサービスの中から選択し組み合わせて最適のソリューションを提供するために、AIを導入している。
すでに言及した営業担当者の労働時間の有効活用や、顧客へのパーソナライズにすでにAIを活用しているが、今後のAI利活用の2大ポイントは、顧客ニーズの把握とビジネス機会予測だ。
(3) 関連。モノからコトへ、機能的価値から体験価値へ、の流れの中で「サービスドミナントロジック(S-Dロジック)」がキーワードになっている。モノをサービスの一部と捉え、サービス全体としての体験価値の最大化を目指す概念だ。また、体験価値をコミュニティ価値向上の手段と捉え、コミュニティ価値の最大化を目指す概念「コミュニティドミナントロジック(C-Dロジック)」も意識しなければならない。
カスタマー/サプライヤー/エンプロイーそれぞれ向けのポータルサイトを構築し、それらからデータを集めて抽出し、質の高い情報を提示して「ファン作り」を実践している。いかにロイヤリティの高い、長くお付き合い頂けるカスタマーを増やすか。インサイドセールス、デジタルマーケティングの腕の見せ所だ。アフターコロナの営業の在り方は「顧客を……“見つける”から“見つけてもらう”へ」であるべきと考える。
(1)~(3)を進める中などで、下記4点を学んだ。
・ロイヤルティプログラムで付加価値提供
「顧客の感情」だけはコピーできない
・CRMは必要だが十分ではない
オペレーションの改善や効率化は有効だが、継続的な競争優位を担保するものではない
・自社手持ちのデータだけでは不十分
パートナーや従業員とのデータ共有
・マーケティング・オートメーションは差別化ではない
効率化と割り切る
営業のデジタル化、マーケティングのデジタル化は、既存事業におけるマインドセット変革であり社内横断のプロジェクトである。当社のオペレーションも含めた古い体質が障害になることもあった。そうした意味で担当者の強い意志やトップのコミットメントが必要なまさに“文化大革命”である。
◎人材開発:経験や勘に頼らないEBL(エビデンス・ベースド・ラーニング)のススメ
LX(Learning Transformation)-学習のDX
人材育成は経営課題である。(1) 不確実性が高く、不透明な時代(VUCA時代)を生き抜くためには、企業は、変化に柔軟に対応する必要がある (2)現場では、どこに進むべきか自分で判断する必要があり、今までと異なる行動ができる人材を育てることが肝要 (3)“カークパトリック4段階評価モデル”にあるように、人の成長は、組織による要因が大きい。人を育てるためには、組織に対しての構造改革が必要 (4)人材育成の成功の為には、『人材育成メカニズム』の構築と『組織構造改革』からの『肯定的学習環境』改善の両方が必須だ。
営業現場の「できない(変われない)」という声は、「やる気がない」にほぼ等しい。企業の人材育成は、学習したことが現場で活かされ、個々人のパフォーマンスを上げ、経営に寄与することが求められているが、なかなか育たないという問題を包含している。
日々の仕事で追われ出来る人に仕事が集中している状況、人材育成における負のスパイラルを脱し正のスパイラルへの転換、プラスの循環を実現し、自社に合う人材育成のメカニズムを構築する必要がある。
そのために当社は例えば、VUCAの時代に必要とされる高い経営目標を実現できる人材を考え、ロバートガニェの学習成果9分類の利活用=学習プロセスのフレームワーク考察を実行した。また、課題解決型ビジネス営業の目指す行動を、ルーブリック(達成度を表を用いて測定する評価方法)を用いて分析評価した。また、商談ロールプレイも行い、現状把握と営業担当の評価を行った。
事業の成長を目指すためには、現場で行動変容を起こす必要がある(カークパトリックの4段階評価モデルより)。ラーニングだけではなく、現場でOJTとして学んだことをすぐに活用する必要がある。職場が“肯定的学習環境”かどうか、を見分けることができる30の指標=PLE30(Positive Learning Environment 30)による評価も行ったところ、2年の活動で値が良い方向に上昇していた。組織成長につながる本当の力がつき、学べば効果が出る組織になっていることが分かった。
変化のスピードに柔軟についていく組織の構成要素はスライドの通り。ビジネスの成果を向上するために、よりよい方法を常に模索してきた。成果は以下。
継続的に成果を出すための組織は、どのように構成要素が必要なのかが明らかになり/その状態を指標を使い、定量的に評価できる/その結果、次の一手の分析が容易で、改善サイクルを職場が主体で実践できるようになった。変化のスピードに柔軟についていける組織は、常にこのようなことをやっているのである。
「やる気」は結果であり原因ではない。良い環境がないからやる気が出ない、良いテーマや仕事がないからやる気が出ないのだ。「日々是学習」である。企業も、組織も、人も、何歳になっても常に学習を続けることが重要ではないだろうか。
2023年1月31日(火) オンラインにて開催・配信
source : 文藝春秋 メディア事業局