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【イベントレポート】半歩先の未来を拓く「変化する経理、進化する経営」本気で向き合うインボイス、電帳法対策後の長期ビジョン

■企画趣旨

来る、2023年10月1日「インボイス制度」、2024年1月1日「電子帳簿保存法の完全義務化」が開始となります。インボイス制度では、紙ベースの請求書から電子請求書への移行が進むことで、請求業務の効率化とデジタル化が進み、電子請求書の自動処理やデータ解析などへの応用などへの期待が高まっています。また、電帳法でも同様に紙ベースの帳簿から電子帳簿への移行することで、経理業務の効率化や意思決定の迅速化に成果を見出す企業も増えています。

一時的な制度対応、法対応といった実務面だけではなく経理の未来、経営の未来をしっかりと描いていくためには、なぜこのような制度や法改正が行われているのか、対策をすることでどのようなメリットがあるのか、対策を機に何を変えていけばよいのかなど、今一度向き合い、業務の効率化、経営の高度化、新規事業の創出など半歩先の成長戦略を切り拓いていくことが不可欠となっています。

しかしながら、一時的な利益やその場しのぎの問題回避を重視する経営者も多く、長期的な持続可能性や組織の健全性を犠牲にした結果、成長が鈍化してしまうといったことも少なくないのではないでしょうか。制度対応、法対応に向き合うタイミングを変革の好機ととらえ、短期的な課題や利益のみに囚われず、組織の目的や価値創出を実現するために戦略的な判断を行うことが求められます。

そこで、本カンファレンスでは、半歩先の未来を拓く「変化する経理、進化する経営」をテーマに、経営者目線、担当者目線の両面から実務の再点検を行い、経理部門のあるべき姿について、有識者、実践者、プロフェッショナルの視点からひも解いた。

■基調講演(1)

インボイス&電帳法、担当者がつまづくポイント!
~日常業務プラス制度改正で疲弊する担当者に「仕方ないじゃないか」と
鼓舞する上司、経営者へ贈る半歩先のヒント~ 
 

金子真一税理士事務所代表
合同会社ピナクル・コンサルティング代表
金子 真一氏

1992年広島大学経済学部経済学科卒業後、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。主に決算業務を担当し金融商品会計等を導入。2002年から住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に移り、主に税務業務を担当。税効果会計、消費税の適正化、連結納税の導入によるタックスプランニング、BEPS対応のほかグループの税務ガバナンス構築等を担当。東京国税局、大阪国税局の税務調査対応は2桁に及ぶ。働きながら税理士受験すること20年以上で、2018年5科目合格。2019年に退職し、東京の目黒にて独立開業。TKC会員。消費税インボイス制度の対応支援や会計システムを中心とした仕組み作り等、実務担当者目線で会計、税務を俯瞰したコンサルティングを実施。その他連結納税対応支援や企業の税務人材育成などにも取り組む。

◎消費税インボイス制度

インボイスの保存省略が認められる例示として9項目示されているが、公共交通機関特例出張旅費特例の二つの整理が混乱しやすいようで、皆さんからの質問が多い。

例えば、交通費を会社が出張旅費として従業員に支給した場合は、出張旅費特例が適用され、インボイスは不要だ(金額基準もなし)が、交通費として従業員に支給した場合は、公共交通機関特例としてインボイスの要否を判断することになる。

出張旅費を定義することで、それ以外が公共交通機関特例の対象と整理するのが考えやすいのではないか。公共交通機関特例の場合は1回の取引金額を3万円未満にするよう従業員に指示し、証憑の保存を極力省略する、という方策も考えられる。

またこのルールはあくまで“消費税インボイス制度上の証憑保存のルール”であり、会社の現状のルールがこれに左右される必要は全くない。大切なのは既存の会社のルールの中で消費税インボイス上のルールを整理することで社内の混乱を避け、税務当局に対する説明に説得力を持たせることだ。

接待、採用活動、高速道路(ETC)などの場面でも、さまざまな交通費関連の取引が発生する。例えば、採用面接に渡す一律定額の交通費についてはインボイスの保管は必要だが、実費を支払った場合はインボイスの保管は不要と私は考える。このように、交通費だけでなく、賃料や電力などの公共料金の立替精算書の場合も、さまざまなケースが生じている。 

◎電子帳簿保存法

これまで紙による保存が原則だった税法が、平成10年税制改正による電帳法にて電磁的記録による保存を可能にした。その後技術の進歩等により保存対象、保存要件の緩和が進み、令和3年税制改正では、(1)帳簿の電子帳簿等保存、(2)紙で入手した取引情報のスキャナ保存(任意)、(3)メールで受領、ネットで入手した取引情報の電子保存(義務化)が導入された。その結果メールで受領、ネットで入手した証憑類については、法人税・所得税上、電子データを紙で保管することは不可となったが、直前の省令改正で紙保存を認める宥恕措置が令和5年まで設けられた。

令和5年度税制改正では、期限か切れる宥恕(ゆうじょ)措置の代わりに、猶予(ゆうよ)措置が設けられ、これまでとはルールが異なっているので注意が必要だ。  

◎上司・経営社の皆様<半歩先のヒント>

消費税インボイス制度は手間が増えるほかコスト増となるリスクを内在した制度変更だ。また、電子帳簿保存法は、請求書等の管理方法の手間が増える制度変更である。

従来の、EXCELを利用した会計システムと税務申告ソフト連携による決算/申告作業に、「インボイスチェック及びデータ補正」「電子取引の電子データ保存確認」が加わると、作業量は膨大かつ複雑なものとなる。

また、税務リスクの問題もある。税務リスクは実際に取引を行う現場に多く存在し、消費税インボイス制度はインボイスでないというだけでコスト増になる。税といえば法人税と考えてしまいがちだが、源泉税や印紙税など法人税以外の落とし穴も多々あり、適正申告ができなかったことに係る付帯税は損金にならないロスとなる。

昨今の人手不足もあり、経理人材や税務人材の採用は困難だ。限られたリソースの中で、担当者の負担を軽減し、税務リスク回避等の高付加価値業務に取り組む方法を考えなければならない。そのためには、既存の仕組み(制約)の下で何とかしようとするのはそろそろ限界ではないか。5年前と比較しても安価で便利なツールが提供されている。ツールを導入してルーティン業務を効率化し、部下の負担を軽減。税務リスクの排除や付加価値の高い業務へのシフトを検討してはいかがだろうか。

■基調講演(2)

デジタル革命時代に求められるアジャイル・リーン組織への
進化とバックオフィスの役割
 

グロービス経営大学院 教員
吉田 素文氏

大手私鉄会社を経てグロービスに参画。ビジネス・経営の全領域を横断するゼネラル・マネジメントを専門とし、グロービス経営大学院での講義に加え、20年以上にわたり、製造業を中心に、経営者育成プログラムを設計・提供、幅広い産業での企業の戦略・組織課題に幅広く取り組み、これまで1500件を超えるビジネスの問題解決に係わる。近年は特に、デジタル、サステナブル、グローバルを中心テーマに活動。情報テクノロジー分野、サステナビリティ分野のリサーチ・実践に注力。テクノロジー企業との協働等を通じ“第四次産業革命時代の戦略・組織への変革””社会課題起点の戦略・ビジネスモデルの進化”等のテーマで様々な企業を支援している。

◎第四次産業(デジタル)革命による根底的な変化

情報技術は急速に進化している。暮らし・社会のあり方やビジネス・産業・競争のあり方や経済性原理が根本・根底的に変化し、指数関数的で予測が難しい環境変化が起こっている。「企業」の基本的あり方の再構築が必要だ。

企業が提供していく「価値」が変化する。
・個別製品・サービスの提供から「顧客体験価値」全体の最適化・個別化へ
・モノや人のサービス以上に、「情報」を源泉とする価値の比重が高まる
・固定的な業界ごとの価値提供から、多様な価値提供者が業界の枠を超えPlatformで結びつく「Ecosystem」へ。

個別製品・サービスの提供から顧客体験価値全体の最適化・個別化へ。詳細は下記スライドを参照。 

モノ・人のサービス以上に情報を源泉とする価値の比重が高まる。モノ・人の経済性は「収穫逓減」だが、情報は「収穫逓増」。規模の拡大が経済性アップと競争力強化につながる。情報から価値を生み出す比重が高いほど、高い経済性と成長の両立が可能だ。

ここでの規模とは、顧客やパートナーの数や信頼の強さなどの「関係資産」だ。そして情報料や知識・ノウハウ・ブランドなどの「情報資産」である。資産をベースにした既存の評価方法では、情報革命時代の企業の価値を適切に判断できない。一方で、これまでにないレベルの大量・多様・即時の情報を用いて、価値創造活動の効果性・効率性を測定・判断することが可能になっていく。

◎求められる価値創造活動の姿/Agile Lean Management 

大量・多様・適時の情報を活用した価値創造活動・プロセスの最適化・ムダの徹底排除と、価値の継続的最適化・個別化と新たな価値の創造が必要だ。実地で仮説検証を繰り返し、早く小さく失敗し、高速で改善・軌道修正・進化・学習し続けることである=Agile

繰り返すが、価値の源泉がモノ・人的サービスから情報・ソフトウェア中心になる。情報に基づき継続的に価値改善・拡張し、価値創造活動を改善・効率化し続けることが肝要。顧客理解の解像度の劇的アップ、顧客との継続的関係構築を目指したい。第四次産業(デジタル)革命時代の組織は“コミュニティ・ネットワーク”になる。領域横断の自律的チーム主体の並列的組織だ。構造は流動的で、柔軟・高透過性の境界となる。

こうした大きな環境変化時にやるべきは「原点を見つめ直す」「核の再強化&革新・進化」。すなわち「Lean Management」、日本(トヨタ)発祥の20世紀最大のマネジメント革新である。顧客が本当に求めるもの「のみ」を、必要な活動「のみ」を行って提供、改善、変革し続ける。それが実現すると、高効率・生産性、競争力、変化対応力が生まれる。 

「問題解決」「標準化」「継続的改善」で競争力を高め続ける。問題の着実な解決と再発防止、成功の標準化・仕組み化、あるべき姿を高めより高い問題を生み出し取り組む、のである。自ら考え、成長する人材とそれを支える仕組みで価値創造&改善のサイクルを回し続けたい。

情報テクノロジーの進化は、Lean Managementを進化させる。デジタル革命時代に求められる組織の動き方が「Agile Lean Management」である。顧客に近いところで、自律的なチームが俊敏(Agile)に、情報に基づき(Data Driven)、提供価値とプロセスを継続的に改善・革新する。ゴールは、情報を活用しエコシステムで顧客体験価値を高め続けること、である。

情報技術で強化された、視える化・自働化・標準/共有化がAgileな活動を支える。そして、視える化・自働化の高度化を実現するのがデータとAIだ。滑らかな情報の流れ、自律・協働、人と機械の学習・成長が実現する時代になっている。 

◎デジタル時代に、バックオフィス業務が目指すべき姿

バックオフィス業務「作業」は極小化し、経営・組織マネジメントシステム構築「業務」へ集中すべきだ。作業は極力自動化・外部化し、減らす・無くす。組織全体にとって重要な活動の仕組みのデザイン・組織構築にフォーカスするべきなのだ。

デジタル変革を実現するには、ビジョン、組織の動き方、技術基盤、人・組織を同時に再設計・再構築することすなわち、マネジメント・コントロールシステムの刷新が必要だ。予測可能性が高い環境を前提にした直線的な計画策定・意志決定・業績評価基準、物売り前提の会計基準等は情報中心・指数関数的変化・新たなビジネスモデルに適合せず、デジタル変革の大きな障害になり得る。新たなあり方の探索・決定と組織内への導入浸透が急務だ。

まとめると、
・デジタル革命時代に適した組織モデルへの進化が急務
・バックオフィス部門はその変革を全組織視点からリード・推進すべき
・「経理部門」は「経営情報マネジメント部門」としての新たな役割への進化を

■実践講演

~経営歴25年、IT企業部長が語る~
経理財務領域の観点から企業価値の向上に繋がる
経理業務のあり方について
 

株式会社マネーフォワード
執行役員 財務経理本部 本部長
松岡 俊氏

1998年ソニー(株)入社。各種会計税務業務に従事し、決算早期化、基幹システムPJ等に携わる。その後、イギリスにて約5年間にわたる海外勤務経験をもつ。帰国後は、各種新規会計基準対応に従事。2019年4月より、当社財務経理共同本部長として参画。在職中に税理士、公認会計士(2020年登録)および中小企業診断士試験に合格。

まず、経理からできる、企業価値向上に繋がる情報提供を列挙する。
高速化スピードアップ、経営意志決定高速化
費用削減=冬の時代に備えた費用削減貢献
部外活動経理の枠組みを超えた、収益につながる活動

電子化/クラウド化/取引自動化/AIといった“壁”を、一気にではなく一つひとつ乗り越えつつDXを進め素早く変革しつづけた先に先端経営がある

第1の壁は、電子化、ペーパーレスだ。IT企業である当社も、2019年当時は自社サービスを活用しきれず、アナログな業務による負荷の高さから業務改善の実施は困難で、平均残業時間や有休取得日数、退職率とも惨憺たる数字だった。

そこで「非紙三原則」=(1)持たず(2)作らず(3)持ち込ませず を策定し実行。例えば受取請求書処理では、マネーフォワードの「クラウド債務支払い」を活用し、(1)現場入力(現場担当が科目と部門を選択し、経理が確認)(2)すべて電子で承認フロー(3)システム間の連携(API=Application Programming Interface等でスムーズに)を実行し、短期間でペーパーレス化した。

電子帳簿保存の3区分(電子帳簿等保存/スキャナ保存/電子取引の保存)では、現時点では任意適用のスキャナ保存に注目していただきたい。令和4年からの改正で申請者が原本=紙を廃棄できるようになり、経理に紙が届かなくても良くなり使い勝手がかなり向上している。全社的な改善効果が大きい。

現在の当社はクラウドツールを使った業務構築を行っているが、最初から自社ツールやテクノロジーをフル活用できていたわけではなかった。まずは、紙の請求書回収を改善すべく、マネーフォワード クラウド債務支払いの導入プロジェクトを発足し、ペーパーレス化と工数削減に成功した。 

◎経営のPDCAサイクル高速化/費用削減

“電子化とクラウド化の2つの壁”を越えた結果、財務会計+管理会計の分析・報告に要する期間は、第10営業日から第4営業日に短縮された。月間199時間の短縮効果である。経営者の関心は過去<現在<将来、だ。部門間のデータやりとり部分を短縮し、鮮度の高い情報を経営陣に届けられることは大きい。

また、経理部門自体の費用削減効果もある。ITの通信業の平均的経理人員比率は1.7%とされるが、現在の当社の比率は2017年頃の2.5%から1.7ポイント削減された0.8%である。グループで会計システムを標準化・クラウド化することで、業務フローやルールの標準化/人的コスト削減/決算締め作業の早期化、がグループ全体で実現している。

すべて正社員で対応するのではなく、BPO=Business Process Outsourcingを従業員と経理の間の申請内容の承認や差し戻しに入れて活用することも効果が高い。当社は今まで述べてきたDX施策により残業が45.79%減り、有休取得日数が12倍に増加し(いずれも2019年比)、従業員満足度も40%改善した。開発チームと定期的に打ち合わせし、ユーザーとしてプロダクトフィードバックを行うなど、経理の枠組みを超えた、付加価値業務に携わることもできるようになった。

科目・部門・取引先別のデータ(過去からの推移)をシステムで把握することが、費用削減活動の第一歩だ。事業単位での撤退判断といったことのほか、取引先単位で費用削減活動優先度を判断する際もデータ分析が寄与する。正しい科目別・部門別・取引先別の費用管理システムが費用削減活動の土台となるのだ。

社内でも、費用上の部門がより精緻化でき、正確な部門原価計算が可能となり、迅速な経営判断ができる。例えば、一人あたりの1ヵ月家賃コスト削減がすでに実現し、マネーフォワードのコーポレートカード活用によるポイント還元もコスト削減に寄与している。

◎外部企業との取引変革/AIの活用

インボイスの導入があり、国が後押しする「Peppol」というデジタル請求書の標準化規格もいずれ普及するはず。マネーフォワードはデジタルインボイスの発行から受領におけるすべてのフローに対応予定だ。

AIについては、インボイス制度の導入でまずはAI-OCRの活用が先行するだろう。マネーフォワードでは、OCR入力を指定して「クラウド経費アプリで撮影」もしくは「クラウド経費に画像をUPする」だけでインボイス登録番号などをテキスト化できる。 

 最後にまとめを。縷々紹介してきたが、まずは社内システムのデジタル化(電子化)とクラウド化、土台作りが先決だ。将来的には企業間のデータ連係やAI利用のさまざまな自動化が進む。AIのパワーが上がり、それを活用できる経理とできない経理に二極化していくだろう。経理として企業価値の向上につながる付加価値活動=高速化/費用削減/部外活動をできるように、まずは土台構築を行っていただきたい。


ディスカッション

半歩先の未来を拓く「変化する経理、進化する経営」

基調講演(1)(2)と実践講演の登壇者は、フリーアナウンサー大里希世氏の司会の下、
下記のテーマに沿ってパネルディスカッションを行った。

(1)経営と現場の溝を深める“その場しのぎの対応”“現場への丸投げ”問題
(2)溝を埋めるための意識改革、組織改革、長期ビジョンの共有
(3)変化する経理、進化する経営のあるべき姿とは?
(4)視聴者の皆様の疑問解消(一問一答)

2023年9月14日(木) オンラインLIVE配信

source : 文藝春秋 メディア事業局