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【イベントレポート】経営企画部門の重大責務 ~人材・予算・時間 リソース配分の最適解~

■企画趣旨

経営企画部門は、「戦略的なビジョンの策定と実行」「環境変化の予測と適応」「リソースの最適な配置」「KPI管理」「組織内連携の強化」など、将来の成長や競争力を確保するために、組織の戦略の方向性を示す重要な役割を担っています。中でも人材・予算・時間といったリソースの最適な配置は、組織のビジョンや戦略の実行、プロジェクトの成否を分ける重大な責任を負うこととなります。

リソースの最適な配置は、成長性を見越した優先順位の設定、リソースの質を向上させるための教育やデジタルツールの導入、進捗状況に応じた柔軟な配置転換、浪費や無駄のデータに基づくモニタリングと評価、関係者とのコミュニケーションの活性化による組織パフォーマンスの向上など、成果や効率性に多大なるインパクトを与えることを理解し、経営に貢献していくことが不可欠となります。

そこで本カンファレンスでは、「経営企画部門の重大責務」に焦点を当て、事業成長の要としての役割、プロジェクトを推進し、成果を享受していくための仕組みづくりについて整理し、肝となるリソース配置の最適解について、有識者や実践者の講演を通じ考察します。

■基調講演(1)

「経営戦略全史」から考える経営(支援)機能
~ いま何が必要か ~

KIT虎ノ門大学院
教授
三谷 宏治氏

1964年大阪生まれ、福井で育つ。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで19年半、経営コンサルタントとして働く。92年 INSEAD MBA修了。2003年から06年までアクセンチュア戦略グループ統括。 06年からは子ども・親・教員向けの教育活動に注力。大学教授、著述家、講義・講演者として全国をとびまわり、年間1 万人以上と接する。KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授の他、早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学客員教授、放課後NPO アフタースクール・NPO法人 3keys 理事を務める。永平寺町ふるさと大使。3人娘の父

確率2分の1のコイントス・ゲームをカジノでやったら、いったいどうなるだろうか? 胴元が勝つかプレイヤーが勝つか、あるいは引き分けるのか。答は“2回か4回勝負なら引き分ける場合が一番多く、ちゃんと勝ち逃げするならプレイヤーの勝ち。でもずるずるやり続ければ胴元が勝つ”だ。要はこの世の中、問題は曖昧で答えは一つではないのだ。

さて「経営企画部門」のことを考えるにあたって、「経営」とは何なのかを『経営戦略全史』(ディスカヴァー21)に沿って見てみよう。そもそも、いつ・なぜ「経営」は生まれたのか。フランスのアンリ・フェイヨルは1917年に、企業にとって「必要不可欠な活動」のうち「経営活動(Administration)」を最重要なものとして挙げた。ビジネスを“統治・統制”することが経営であり、その方法を学ぶMBAとはMaster of Business Administrationの略なのだ。

フェイヨルはその経営活動を「経理管理プロセス:POCCC」と整理した。(1)計画=Planning(2)組織化=Organizing(3)指令=Commanding(4)調整=Coordinating(5)統制=Controllingの5つのサイクルを回すことが経営であると提唱したのだ。工場を科学したのがフレデリック・テイラー、人を科学したのがエルトン・メイヨー、そして企業統治を科学したのはフェイヨルなのだ。

経営戦略という概念の誕生は1938年の「バーナード革命」からである。チェスター・バーナードは、大恐慌という壮絶な「外部環境」を切り抜けた経営者だ。彼はそのためには組織がシステムとして機能すること、そしてそのためには(1)貢献意欲(2)コミュニケーション そして何よりも(3)共通の目的(=「経営戦略」)が重要だと主張した。つまり「経営戦略」のもっとも根源的な定義は「組織を越えた共通の目的」だと言えるだろう。

その後、発展を続けた経営戦略論は、マイケル・ポーターに代表されるポジショニング派と、ジェイ・バーニーらのケイパビリティ派に分かれ、ヘンリー・ミンツバーグのようなコンビネーション(組合せ)派の論客も表れて長く論争が続いた。また、ブルース・ヘンダーソンが1963年に起こしたボストン コンサルティング グループ(BCG)は、(1)経験曲線(2)持続可能な成長の方程式(3)成長・シェアマトリクス(一般にはプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント:PPMとも呼ばれる)の3つにより、経営戦略論に定量分析と競争・時間・資源配分の概念を与えた。なかでも成長・シェアマトリクスは、無関係多角化が進んだ欧米企業のCEO、CFOたちが多くの事業を管理する(事業スタンスと資金循環の判断)ための、指針を示したものだった。 

例えば、左上のスター(★)事業は競合に対する相対シェアが高いが、市場成長率も高いため継続的な投資が必要だ。そのためには、左下の金のなる木(¥)事業から資金を吸い上げて回す必要がある。このマトリクスは事業・組織を超えたトレードオフを判断し、後押しするためのツールとして広く受け入れられた。

こうした経営分析ツールやパーパス/ビジョン/ミッション/バリューといった概念、ROS/ROA/ROE/ROICといった財務指標などは、経営者が株主や事業責任者と戦うための武器でもあるのだ。

◎日本で生まれた「経営企画部門」の功罪

経営企画部門」というものはある意味、日本の経営者にとっての究極の武器なのだろう。先述のツールを使いこなしつつ、情報を集め調べ、考え議論し、社内の各部門と調整をしてくれる。

会議事務局、中計策定と進捗管理、年予算編成と進捗管理、M&Aなどを主担当し、さまざまな業務に広く関与する。日本総研が2016年に発表した『経営企画部門の実態』調査によると、経営企画部門は自らの現状を、事務局/経営者の手足/調整役/あらゆること対応、と表現するものが半分を超えた。一方、将来のありたい姿としては、経営者の参謀/会社の頭脳/中長期推進/変革リーダー、などが96%という結果だった。
 

でも経営企画部門の将来目指すべき姿は、本当に参謀や頭脳でいいのだろうか? 

そもそも欧米の会社には経営企画部門などほぼない。その理由は、
・トップ・ミドルダウン型だから「調整」が要らない
(全社経営計画:CEO中心のCXO数名で全体目標・事業目標を決める。事業部経営企画:事業責任者たちが事業戦略を決め自ら実行する)
・責任者たちが「経営」の専門家だから支援が要らない
(マネジメントキャリア:20代からFP&Aと事業戦略・企画・責任者のキャリア。支援:必要なら専門コンサルタントなどを雇えば良い)

リーダーや参謀はひとりずつでいいのだ。そしてそんな環境下で、事務局・万屋型の経営企画部門を立ち上げても優秀な人材は決して集まらないだろう。

ではなぜ日本企業に経営企画部門があるのだろう。それは、
・本当には権限も責任も委譲していない
(決める前に調整、実行段階で調整、上下左右と調整。連帯責任型の幹部にやさしい経営)
・責任者が「経営」の専門家ではない
(リーダーシップのあるジェネラリストか他分野の専門家。外部専門家を使うのはイヤ)
 からだろう。逆に言えば、経営企画部門という経営代行機能が社内にあるから、経営者が育たないのである。

よって最後に、経営企画部門の発展的解体のススメ、を提案する。
 日本企業の経営力を上げるためにも、経営支援機能は経営代行から直接補佐やプロジェクト型に移行すべきと考える。

大型で体重の重い恐竜はその内部構造ゆえに大繁栄し、そしてそれが故に大絶滅を起こした。ヒト・組織変革の難しさと重要性は、アルフレッド・チャンドラーの『組織は戦略に従う』(ダイヤモンド社刊)に詳しい。「組織と戦略は密接に関わるが、組織の方が変わりづらい」と彼は述べている。そして、内部構造(ヒト・組織)の進化が遅れると、恐竜のように滅びるだろう。未だに存在する経営戦略と人事戦略のズレを正すのは経営企画“部門”ではない。経営力のある“個人”をもっと育てよう。

■課題解決講演(1)

経営企画部門が牽引するDX
~失敗しないデータドリブン経営~

ドーモ株式会社
リードコンサルタント
守安 孝多郎氏

日本のIT業界にて20年以上の経験があり、エンタープライズビジネスでプロフェッショナルサービスに従事している。ドーモにおいて、テクニカルコンサルとして、クライアント企業のデジタルトランスフォーメーション推進のため、Domo導入支援、コーチング、コンサルタントを担当。ドーモ入社以前は、コンサルティングファームのシニアマネージャーとして情報システム部門のさまざまな課題解決に取り組んできた。

経営企画部門=企業の中心/花形、というイメージを私は持っている。花形ならではの難しい部署であり、課題も多い。まずは中長期の経営企画策定がある。策定範囲は多岐にわたり、高度なビジネス知識や分析スキルが必要となる。

(1)人=人材不足・人手不足・属人化(多種多様で守備範囲の広い業務を少人数で対応)
(2)分析=広範囲・専門性・正確性・予測(リアルタイムな分析によるイノベーション)
(3)デジタル=DXの取組深化(高度化・複雑化・自動化)の流れ
といった課題も存在する上に、時間=専門スキルのある人材の減少に伴う長時間化・膨大な分析時間も影響してくる。

本日は(3)をツールを活用して推進し、(1)(2)の課題も解決する助言をしたい。データ分析は必須であり、経営企画部門が分析しなければならないデータと業務領域は多岐にわたる。昨今はデータ活用の本質が理解されるようになり、データ活用の分野で部分最適で成果が出てきている組織もある。

Domoの経営マネジメント(ストラテジーマップ)を利用すれば、見やすいダッシュボードで各種データ、数字、分析結果が予測値含め把握できる。様々なチャートやマトリクスもあり、ターゲットとすべき顧客が分かったり、コストや購買関連の情報、調達リスク、CO2排出量ほか環境関連の情報も取れる。多様な表現・見せ方が可能な雛形も揃っている。

ハードルが高いと思っている(データ活用に消極的)/表計算ソフトの限界(データ収集や分析に時間がかかっている)……といった理由でデータ活用が進まない企業は多い。また、事業部門には各種システムやツールが導入される一方で経営企画部門は表計算ソフトのままだったり、決まった業務・分析・方法がない業務もあって表計算ソフトに回帰してしまう、といった場合も残念ながら存在する。経営企画部門はリーダー的立場だが、データ活用のリード役まで手が回らないのだ。

実際にDomoを導入した企業は、以下のような実績・成果を上げている。

Excel業務をすべて自動化/アクションに繋げる工夫をする/社内におけるデータ活用定着化/分かりやすい情報をDomoで発信し続け自発的な業務改善へ/各部門で抱えていたデータをDomoで連携、全社レベルでのデータ活用へ/DXが一歩前進、予算管理データをDomoに集約、業務工数を大幅に削減/全社員に経営状況を共有し、社員の“貢献したい気持ち”を“行動”へ

経営企画部門が牽引するDXの要諦は、失敗しないツール選びだ。

Domoはオールインワンで、接続⇒統合⇒分析⇒展開、といったデータジャーニーをドラッグ&ドロップを始めとする簡便な操作、使いやすいインターフェイスで実現する。エクスポートや外部送信(共有)も容易だ。

改めて述べると、データは全社的に活用するほど、効果が高まる。BI(ビジネスインテリジェンス)を導入するだけではなく、実際の活用率が高いほど効果の度合いが最も高い。全社的活用だと約半数が30%以上の売上拡大を実現している、という調査結果がある。経営企画部門は号令をかけられる(かけやすい)ポジションにある。そこが事業部門を巻き込んでDXを牽引することが成功の鍵である。

第三者機関による評価も高いDomoの導入を検討のうえ、DX牽引、コスト削減、課題解決に繋げていただければ幸いだ。

■特別講演(1)

知と汗と涙の近大流コミュニケーション戦略
~ 『長期ビジョン 2030』の確実な実行に向けた“経営戦略部門”の使命 ~

近畿大学
経営戦略本部長
世耕 石弘氏

奈良県出身。大学を卒業後、1992 年近畿日本鉄道(株)に入社。以降、ホテル事業、海外派遣、広報担当を経て、2007 年に近畿大学に奉職。入試広報課長、入学センター事務長、広報部長、総務部長を歴任。20 年 4 月から広報室を配下に置く経営戦略本部長となり、現在に至る。

◎営業(ビジネス)の生産性を上げるには

近畿大学(以下、近大)の建学の精神は「実学教育」と「人格の陶冶」だ。それまでにない独創的な研究に挑むこと。その研究成果を社会に活かし、しかも収益を上げることを実学として捉えている。1948年から「水産研究所」を立ち上げ、「海を耕せ/但し、金はない。研究費は自ら稼げ!」の言葉の下、魚の養殖研究を続け、現在のクロマグロ養殖や世界への養殖技術供与に至っている。

近大の創立は1925年で、現在98年目。キャンパスは近畿地方を中心に6つ、15学部49学科を擁する日本屈指の総合大学である。学生・生徒数は大学から幼稚園までで約5万4000人、教職員数は約1万500人だ。学生数は約9万5000人の日大に次ぐ2番目で、事業活動収入は関西最多の約1500億円だ(週刊東洋経済の記事より)。

事業活動収入の柱は医療収入と学生生徒等納付金で、2021年度の基本金組み入れ前当年度収支差額は123億円。これを原資として教育研究環境の充実やキャンパス整備を行っている。『THE World University Rankings 2024』では、私立大学では慶應、早稲田に次ぐ3番目にランキングされている。

ご存じのように18歳人口は今後も右肩下がり。1992年に205万人だったのが、2018年には118万人となり、40年に約88万人~77万人になると予測されている。主要私立大学の志願者数も激減しており、経営環境は厳しい。教育環境の充実は継続実行しているが、マスコミ主導の大学グループ序列付け“入れ替えなきリーグ戦”は、長きにわたり変わらない。よって大学界の“常識”をぶっ壊すコミュニケーション戦略を近大は取ってきた。

近大のコミュニケーションの基本は「伝えた」ではなく「伝わったか」。マグロを前面に出した広告を打ったり、派手な入学式や著名人を講演に招聘した卒業式、養殖魚専門料理店の出店などを行ってきた。結果、2020年の『日経BP大学ブランド偏差値』では京大、阪大に次ぐ3位に。関東での知名度も上がってきており、2023年の総志願者数は20万5275人で10年連続の一般入試志願者数日本一となった。

◎中期経営企画・長期ビジョン関連

『学校法人近畿大学長期ビジョン2030』には、「時代の変化に対応し、選ばれる教育機関であり続ける」と掲げている。信頼される、愛される、常に革新的である(尊敬される)大学を目指す。その一方であまり公表はしていないが「関関同立に合格しても選ばれる大学になる」をあるべき姿とし、戦略とロードマップを作成してもいる。

本法人が目指すべき中期的な目標と計画は下記のスライドのとおり。

 経営戦略委員会を設置し、具体的数値目標KPIを作成している。例えば、近大は「起業」に力を入れており、24時間365日オープンの施設「KINCUBA Bacecamp」を立地の良い場所に作るなどして「大学発ベンチャー数を2023年に71社、24年に84社にする」というKPIを設けている(既に達成)。超過勤務時間削減や在宅勤務実施率、各職場や決済・申請書類の“電子化達成率”の目標もある。

インターネット出願をいち早く導入したことは志願者増につながった。amazonやslack、オンデマンド授業も積極的に活用している。2023年に38科目あるオンデマンド授業(共通教養科目)は学生に非常に支持されており、1.5倍速で夜11時頃に最も見られている、というデータもある。成績と視聴・再生速度に相関性はほぼない。

あと2年で創立100周年。大学が“その時代時代に合わせて新しいものに飛びつく、先端的なことをやる”というスタンスでいると、そのような志向の学生が多く集まってくる。相乗効果で盛り上がってくる。積極的にデジタルを活用し、そういう意味での先端大学になっていきたい。

■課題解決講演(2)

来年こそは卒業したい、経営管理業務のExcel祭り...
経営企画が「考える時間」を増やし、
経営会議の品質を上げるための新しい選択肢

株式会社ログラス
マーケティング部 PartnerAlliance責任者
高野 光平氏

スーツアクターという特殊な職業を経て、WEB制作会社の営業に転身。福岡支店長や本社営業マネージャーの経験を経て、Sansan(株)にジョイン。同社では、インサイドセールスや営業に携わった後、自ら志願してマーケティング部に移動し、Executive向けのマーケティングやパートナーマーケティンググループのマネージャーを歴任。現在は、(株)ログラスにて、各種マーケティング施策に取り組む傍ら、Partner Alliance責任者としてパートナーの開拓・育成に従事。

◎会社経営における経営会議の役割と位置づけ/現状における課題

経営会議とは、業務執行に関わる意志決定を行い、方針作成を目的とする会議体である。経営企画としての最たる役割は「予実管理」。計画策定・月次モニタリング・予実差分析・修正計画、だ。日々高い精度の予実管理を行い、予実の差分が何から生じているのか分析した結果を示唆として経営にレポートすることで、今後の方針策定の議論を促す。

多くの企業の課題は「ムダな会議」だ。それによる企業の損失は年間15億円以上生じている(パーソル総合研究所調べ)。会議が終わっても何も決まっていない、重要だと思えない議題に時間が費やされる、といった実情がある。また、約75%の企業が経営分析結果の報告までに8営業日以上かけている(ログラス調べ)。

こうしたムダや時間の浪費を無くすためにDXが求められている。しかし、老朽化し継ぎはぎになった基幹系システムが、データのブラックボックス化をもたらしている。多極分散化した組織内で生まれたナレッジを吸い上げ、統合するためのインフラが大半の企業で存在しないのだ。“2025年の崖”である。

DX推進の成功には、縦割りの個別最適ではなく、全社最適や行動変容を伴う変革が重要だ。一方、社内にデジタル人材を持つ組織は稀少。だからこそ、全社的・機能横断的な「経営企画部門」が重要な役割を果たす。「経営企画を立ち上げるべき5つのアラート」は以下。

◎課題の背景と“今”何をすべきなのか/経営管理クラウド「Loglass」

経営管理は関係者が多く、その工数の多くが数値収集や加工、他部署との連携に充てられるため、マネジメントコストが高い。また、昨今の経営データの大半は未だにExcel等の表計算ソフトデータを転記・加工されている。

企業価値を向上する経営管理クラウド「Loglass」。これは、経営データを正確かつ迅速に可視化・分析することで、柔軟・高精度な事業推進を実現する経営管理クラウドサービスだ。会計ソフトの実績データ・表計算ソフトの計画データを全て一元管理できる。財務レポートやBIツールに迅速に出力することも可能だ。また、事業部側の従来は経営やファイナンスにあまり関与していなかった役職者も経営に巻き込むことができるようになる。

先手を打てる、経営推進へ。Loglassを導入することによりアナログ運用の多い経営管理領域のデータを一元化し、予算策定⇒予実管理⇒見込更新⇒管理会計のフローを効率的に仕組み化し、柔軟に“次の一手”を打ち出せるようになるのだ(デモ画面紹介あり)。

Loglassが提供する3つの価値は、(1)正確で網羅的な経営情報へ。誰でも、いつでもアクセスできる世界に(2)次元が異なる複数の情報を一つの画面で。示唆に富んだ分析を導く直感的UXを(3)リアルタイムにアウトプットを表現。環境変化に即応可能な動的議論を可能に、だ。

全ての企業からデータの断絶をなくし、経営分析に必要なデータベースを構築する。これがLoglassのチャレンジである。

■特別講演(2)

中外製薬における経営企画・推進機能の取り組み
経営企画が「考える時間」を増やし、経営会議の品質を上げるための新しい選択肢

中外製薬株式会社 執行役員 経営企画部長
小野澤 学寿氏

1994年中外製薬株式会社入社。市販後臨床試験、臨床開発を経験後、米国留学しMBA取得。部門横断による製品価値最大化・マーケティングプラン策定のプロセスの確立と運営に携わったのち、グローバルプロダクトのブランドマネジャー(ライフサイクルリーダー)を経験。米国子会社社長等を経て、2021年より経営企画部長。同年から開始した長期の成長戦略「TOP I 2030」の推進に取り組んでいる。

◎新薬ビジネスの特徴

私たちが手掛ける新薬ビジネスは、ハイリスク・ハイリターンである。薬の種を創出してから上市までの確率は非常に低く、開発費は高いが当たれば大きい。製品ライフサイクルは、研究開始から上市までは10年以上で製品寿命は10~15年程度。その一方で、競争が激しいため開発スピードは重要だ。

創薬の成功確率は高くない。数年にわたる基礎研究を経て臨床試験に入った薬剤でも、承認に至るのはおよそ10%だ。一つの薬の成功には、失敗のコストを含め25億ドル(3000億円)を要すると試算され、前の10年に比べ2.5倍に膨らんでいる。また、特許が満了するとジェネリック品が発売され、売上が急速に下がる“パテントクリフ”が存在する。大型製品の年商が1年で半減、2年で3分の1になることもあり、新薬の連続的創出が事業継続の必須要件である。

◎これまでの成長の振り返り

1925年に創業した中外製薬は、がん・バイオに強みを持つ研究開発型製薬企業だ。医療用医薬品メーカーとして日本トップクラス(2022年度の売上収益1兆1680億円)であり、ユニークなビジネスモデルと独自のサイエンス・創薬技術力を持つ。

当社は2002年にスイスの巨大製薬企業ロシュと戦略的アライアンスを開始した。現在、ロシュが株式の約6割を保有するが、当社は東証における上場を維持し、経営の自主性・独立性を保つことで高成長を実現してきた。

提携を模索した当時、当社の業績はバイオ技術を生かした2製品を中心に安定していた。しかし、10年後をシミュレートすると、悲観シナリオでは業績悪化のリスクがあり、複数の課題も見えてきた。バイオ技術のさらなる強化の必要性/グローバル企業との研究開発費の差/グローバル市場へのアクセスという3つの課題を解決するために、当時の永山社長がロシュとの資本提携を含む戦略的アライアンスを決断した。この決定にはまさに経営企画機能の役割である「ビジネスモデルを決める上での情報の提供」があった。

新薬ビジネスのバリューチェーンと当社の機能、KSF(Key Success Factor)をまとめたのがこのスライド。新薬ビジネスで最も経営資源を要するのは、後期開発とグローバル販売網の構築である。当社はこの部分をロシュ(+第三者)のネットワークを通じて行うことで、経営資源を新薬創出に集中しつつ、効率的に自社創製医薬品のグローバル市場へのアクセスを実現。同時に、ロシュの医薬品の国内展開を手がけることで、安定的な収益基盤を確保している。

新薬創出の実行部隊を担う研究のKSF=競争力のあるモノづくりを説明する。当社のKSFは、世界的なモダリティ※のトレンドに乗り、技術を生かした創薬を行うことだった。日本の製薬企業は伝統的に化学合成による医薬品に強みを有するが、近年、バイオテクノロジーによる医薬品が大きく成長している。当社はバイオの技術を磨き、日本では先頭を走ってきた。この成功にも経営企画の役割「KSFに基づく戦術遂行の支援」が機能している。
※低分子医薬品、抗体医薬品など、創薬技術ごとの薬のカテゴリ。モダリティごとに技術・ノウハウが異なる。

2022年の業績をアライアンス前の2001年と比較すると、売上収益は7倍に、営業収益は17倍(22年は4517億円)に拡大した。当社の事業ポートフォリオは“新薬ビジネスに特化(集中)し、ロシュとのアライアンスにより国内ビジネスはミドルリスク・ミドルリターン/海外(自社新薬)はハイリスク・ハイリターン”というもの。ここにも経営企画機能の役割「適切な事業ポートフォリオ管理」が働いている。

◎今後の成長に向けて

企業の前提は、「企業と社会の持続的な発展にどう貢献するか」だと考える。これは、経営企画機能が常に意識すべきことでもある。 

当社は、2030年にヘルスケア産業のトップイノベーターになることを目指す成長戦略「TOP I 2030」を掲げている。各国の医療費抑制や既に述べた研究開発費の高騰など、製薬産業を取り巻く状況は厳しさを増しているが、科学技術の発展や顧客の変化は、当社に多くの機会をもたらすと考えている。環境変化見通しと事業への示唆、「戦略立案(=修正)のための環境整理・理解」は、経営企画機能の役割の重要な一つだ。

成長戦略TOP I 2030の目標は、“R&Dアウトプット倍増/自社グローバル品毎年上市”だ。世界最高水準の創薬を実現し、先進的事業モデルを構築する。「持続的成長に向けたわかりやすい戦略の策定」も、経営企画機能の役割だ。

戦略ができたら次は実行。「戦略遂行のための組織を設計(更新)する」。これも経営企画機能の役割である。当社の組織は、戦略・環境に基づき柔軟に更新し、製品・プロジェクトベースでの価値最大化を目指している。「戦略遂行のための資源配分を行う」ことも重要。KPIにより妥当性の検討を行い、研究・早期開発への資源シフトを行っている。

利益見通しから課題を抽出し対応策を検討」「戦略から計画への落とし込みとトラッキング」も重要な経営企画機能だ。長期、短期双方の見通しから課題を抽出し、PDCAサイクルを回して重要課題には即時・柔軟な対応を行う。全社、基幹業務両方の業務プロセス改革つまり「部分最適に陥りがちなプロセスの刷新」も経営企画機能が担っている。

最後にまとめ。
・企業としての成功は、ビジネスモデルとそれに関わるKSFの明確化、KSFに応じた資源配分・組織体制・プロセス(人/ケイパビリティの獲得)が必須
・経営企画・推進機能は、ミッション実現のためのあらゆる活動の旗振り役であり、上記をリードする役割を持つ
・経営企画・推進機能は、一つの組織にある必要はなく、経営企画部・財務経理部等にわかれていてもよい(が、連携とその役割の認識は重要)
・経営企画・推進機能は、全社全てにかかわるが、すべてを行うわけではない。事業部や機能本部と連携し、支援し、支援される意識が重要

価値を生むのは、事業部や機能本部。経営企画・推進機能は謙虚さと誇りを持つべきだ。

2023年10月5日(木) オンラインLIVE配信

source : 文藝春秋 メディア事業局