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オバサンジョ大統領に食い込む政商

 やがて中国が経済発展とともに中国企業の海外進出政策「走出去」を打ち出すと、ホテル事業でナイジェリア政府の要人とのコネを持っている胡の重要性は上昇する。中国政府からは、中国和平統一促進会理事、ナイジェリア中国友好協会会長といった要職を与えられるようになった。

 胡の事業も成功しており、現在は金門グループとしてホテル経営の他にレストラン・旅行・貿易・建築・建材生産・機械や木材の加工など多方面に事業を展開中だ。グループ全体の資産額は1億ドルを突破し、従業員3万人を雇用するに至った。多額の寄付を投じて学校を4つも作るなど、慈善家としての顔も見せている。

ご自慢の武装コマンドーに囲まれて満面の笑みを浮かべるナイジェリア華人酋長の胡介国。文革を経験した世代のバイタリティは半端ではない。中国のニュースポータルサイト『毎日頭条』より

 いっぽう、胡はナイジェリア側でも歓迎され、2001年に華人で最初の酋長に任命された。その後、彼はオバサンジョ大統領(当時)の経済顧問として政府中枢に食い込み、オバサンジョの訪中時に付き従うなど、ナイジェリアでも有数の政商として台頭。現在は500人の武装コマンドーに護衛されて(しかも経費はナイジェリア政府持ち)豪邸に住んでおり、商人というか酋長というか、軍閥の親玉みたいなことになっているらしい。

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中国とナイジェリアの蜜月関係を象徴するもの

 ほかにも、近年は中国とナイジェリアの蜜月関係もあって、中国人への酋長の称号の授与がしばしばおこなわれるようになっている。

 例えば中国のインフラ系国有企業大手・中国土木工程集団公司幹部の陳暁星(2008年)、同じく中国土木工程集団子会社の中土ナイジェリア有限公司総経理の李慶勇や、メディア企業の四達時代ナイジェリア公司のCEOである劉金泉(ともに2015年)……といった具合だ。冒頭の李青年もそうだが、これらは彼ら個人がナイジェリア社会と特に関係が深いというより、所属先の中国企業への現地社会からの贈り物という面が強いのだろう。

 ちなみにナイジェリアはイスラム圏である北部を中心に過激派組織ボコ・ハラムのテロや誘拐が横行するなど、治安があまりよくない。部族や地域間の抗争も激しく、2016年以降に農耕民と牧畜民の衝突により略奪や焼き討ちが発生し、3600人以上が死亡したとも報じられている。同国ではキリスト教圏の南部(沿海部)は比較的安全……とされているのだが、2014年には南部を中心にエボラ出血熱が広がるなど、別種のリスクも存在している。

 だが、ナイジェリアはアフリカ最大の人口とGDPを誇る大国で、石油をはじめ豊富な地下資源を持つため、中国のビジネスマンたちは熱視線を向け続けているのだ。21世紀に入って、やたらに登場している華人酋長たちも、活発な経済活動の成果というわけだろう。