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一度に600万円売り上げた中国人富裕層向けの売り場

 客層が代替わりしてきた秋葉原で、新規参入客はなんといっても中国人の団体ツアーである。オノデンの前に立っていると、交差点に馴染みのない漢字4文字の旅行会社のマークを付けた観光バスが次々と停車していく。中から降りてくるのは中国人観光客だ。彼らはオノデンの右隣の免税店にまず直行し、そのあと並んでいるオノデンの店頭に殺到し、さらに勢い余ってその隣にあるアダルトショップでも物色している。おこぼれにあずかる作戦なのか、アダルトショップなのにちゃっかりと店頭には観光客が好きそうな普通の安い鞄などが置いてあるのが可笑しい。

 オノデンは最近、中国人観光客向けに4階フロアに特別な売り場を作った。日本の伝統工芸品を扱うコーナーで、安いものでも南部鉄製の鉄瓶が数万円、なかには100万円を超す逸品もある。そこだけ照明を落として高級感を演出している。

 

「中国人の富裕層向けです。ああいう方たちは1階のツアー客と一緒になるのを嫌がられるので。一度に600万円分も買い物したお客さんもいますよ。どうやって持ち帰るのか心配したら、プライベートジェットだから大丈夫と言われました」

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ひっそりと掲げられた平和のシンボル

 4階から1階のお土産物コーナーに回ると、七色に染められた布に「PACE」と書いた旗が2枚、売り場の壁に貼られていた。「PEACE」の綴り間違いではないかと指摘すると、イタリア語で「平和」という意味だという。

「昔デロンギ(イタリアの家電メーカー)さんの本社見学に行ったときに、街のあちこちにこの旗が掲げられていて、良いもんだなと思ったんだ。平和運動の象徴みたいなものだね。それで現地で買ってきて店に貼って、それがボロボロになったからネット通販で買い直してこれは2代目」

 

 世界中の観光客が往来する秋葉原の老舗家電量販店で、ひっそりと掲げられた平和のシンボル。目立たないけれど、しっかり自分たちの立ち位置は明確にしておく。私はなぜか小野さんらしい、と思った。

――お客さんの反応はどうですか。

「それが来る人は中国人ばっかりだから、みんなイタリア語はわかんないのね(笑)。もっと反応あるかと思ってたよ。ま、店の意思表明みたいなものだから自己満足でもいいんだよ」

 小野さんはそう言って、最後に大きく笑った。

写真=榎本麻美/文藝春秋