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皇室ゆかりの美術品に見る、紡がれ続けてきた日本の美の「粋」とは

アートな土曜日

2019/05/11
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時代を超えて名品がひとつの空間に

 歩を進めると、藤原定家の筆による《更級日記》、雪舟等楊の《秋冬山水図》、葛飾北斎の肉筆画《西瓜図》などが、ひとつの空間に収まっているのに出くわす。小さい本の見開きいっぱいに書かれた藤原定家の筆跡は、大きくうねりながら一本の力強い線を成して延々と続く。単なる文字の羅列のはずが、きわめて装飾的なものとして眼に映る。

《更級日記》藤原定家筆 鎌倉時代・13世紀 宮内庁三の丸尚蔵館

 雪舟等楊の水墨画は、雄大な光景をリアルな筆致で写し取っている。が、空間のある一点には縦に鋭く唐突な線が走っており、時空に亀裂が入ってしまったかのよう。一本の線が、画面の緊張感を一気に高めているのだ。

《秋冬山水図》雪舟等楊 室町時代・15世紀末〜16世紀初 東京国立博物館

 葛飾北斎の縦に長い絵画は、西瓜の瑞々しい実、その上に被せられた柔らかな薄布、堅固な包丁の刃、吊るされた西瓜の剥き皮の心細さと、それぞれのモノの質感をみごとに描き分けてある。驚くよりほかない筆さばきの冴えを見せてくれる。

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《西瓜図》葛飾北斎 江戸時代・1839年 宮内庁三の丸尚蔵館

 それぞれの作品には、研ぎ澄まされた美的感覚が十全に表れている。定家は鎌倉時代、雪舟は室町時代、北斎は江戸時代と描かれた時期は異なれど、独自の美を生み出さんとする作者の気迫は共通しており、それが画面から痛いほど伝わってくる。これらを居ながらにして見渡せるとは、何たるスペシャルな空間であることか。そこに身を置く幸せを噛み締めたくなる。

 展示は室を変えながらまだまだ続き、日常と家族の愛情を捉えた久隅守景《納涼図屏風》の優しい気配に人心地ついたり、京焼における色絵の大成者として名を残す野々村仁清《色絵牡丹図水指》の魅惑の色合いに酔いしれたり。渾身の作品群を受け止め続けていると、心が忙しくてしかたない。

《色絵牡丹図水指》仁清 江戸時代・17世紀 東京国立博物館

 長年にわたり紡がれてきた日本の美の精髄、しかと受け止めるため会場へ足を運ばれたい。

皇室ゆかりの美術品に見る、紡がれ続けてきた日本の美の「粋」とは

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