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新型コロナ「アビガンは効かないよ」問題について

いまさら「駄目でした」とは言えなくて……

2020/05/22
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追及されるととっさに小さな嘘をつく安倍首相は

 繰り返しになりますが、アビガンが効くかもしれないというときに、政府が戦略物資になるかもしれないと踏み込んで投資をすること自体は「試すべき価値のあるプロジェクト」だったとは思うのです。にわかに戦略物資になったマスクを中国が独占して「マスク外交」を展開するのならば、我が国には「アビガンがあるじゃないか」とジオン軍みたいなことを言いたくなる気持ちも分かります。

 ハズレかも知れないというのは承知の上で、未曾有の事態で不確定な将来が予測されるなか、新型コロナウイルス対策の切り札候補は1枚でも多く持っておきたいのは正しい。しかしながら、そういう外れることもある博打であることは承知の上で、駄目ならすぐに損切りをして、正直に経緯を国民に話すことが本当の政治だと思うんですよね。

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 どうもこの「正直に経緯を国民に話す」ことができない政治になってしまっているから、検察庁法問題然り、モリカケ然り、桜然り、大坪寛子・和泉洋人不倫問題然り、伊藤詩織問題然り、本来日本政治ではそこまで重要でない(当事者にとっては死活問題にせよ、国会で他の重要議題をほっぽって議論するほどではないという意味で)問題に無駄に時間を費やすことになるのです。

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 安倍晋三さんも、追及されるととっさに小さな嘘をつく悪癖があって、それが結果として矛盾を突かれてどんどん嘘で塗り固めなければならなくなり、猛烈な火だるまになるので事態収拾のために高級官僚が責任を押し付けられて詰め腹を切らされる、ということの繰り返しになっているのではないでしょうか。

 黒川弘務さんなんて、当初は「余人をもって代えがたい」とか言って、法相の森雅子さんも「あんた弁護士だろ」と思わず突っ込みたくなるようなクソ答弁を繰り返してまで頑張っていたのに、いざ賭けマージャンの文春砲でかばい切れなくなると手のひらを返したように尻尾切りに走る、というのは安倍政権がいままで賑わせてきたスキャンダル後始末の典型です。こんな花道もないような辞任劇が何十年の役人・検察官人生の最後に待っていようとは思ってもいなかったことでしょう。

本当に問われるべき経済問題はそっちのけ

 長期政権になりすぎた「側近政治」安倍官邸の組織疲労かもしれないし、この国民生活が大変なところで安倍晋三さんと女房役であるべき官房長官・菅義偉さんとのある種の権力闘争が経済問題そっちのけで繰り広げられている問題もあるかもしれません。あるいは、どこぞの新聞社の社会部と政治部の主導権争いなのかは分かりませんが、政治とはそういうものなのだという恐ろしさと諦観とがない交ぜになった詫び寂びを感じます。

 でも、本当に問われるべきは例えば使いづらいマイナンバーに依拠した「特別定額給付金ひとり10万円」がもっとスムーズに支給されるにはどうするべきか、また厚労省の「雇用調整助成金」オンライン申請に不具合が出て復旧のめどが立たないことをどう収拾するかというような、やるべき対策のほうにあると思うんですけどね。学生さんとか、就学もままならないままバイトもできず困窮しとるのは国家的損失ですよ。また、今年以降卒業する学生さんは大氷河期になります。みんな不安がってるんですよ。政府は安倍晋三さんが率先してここに大きなメッセージを投げないと。

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 それもこれもあって、新型コロナウイルス対策では日本はなぜか死者が少なくて『豪運』安倍晋三さんの真骨頂だなと思う反面、世界では対策と結束を強く促してリーダーシップを発揮した各国指導者が軒並み支持率を上げる中、我らが安倍晋三さんだけ支持が低迷しとる状況というのは悲しいんですよね。なんで一番うまくいってるはずの我が国だけが、クソみたいな議論で大混乱してるんでしょうか。

 国民の経済そっちのけで権力闘争をしている人たちの脳に、アビガンは効かないんですかね?

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