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オードリー・若林正恭「東京にいると、自己肯定できなくなっちゃうでしょ」

キューバやコロナ後の東京を見て変わった“自意識”

2020/10/06
note

――本当に好奇心が強いですね。エッセイでも、東大の大学院生の家庭教師に、歴史や社会構造を教えてもらっているとありました。勉強は続けているんですか?

若林 今でもLINEで家庭教師に質問したりします。でも、頭が良い人と、僕みたいに勉強ができなかった人の違いだと思うんですけど、習ったことを忘れちゃうんですよね。それで「2年前にも説明しましたよ」って言われて。だから、「頭悪い人間は忘れちゃうんだから、また同じように教えてくれ」って言いました!

©️文藝春秋

「親父はね、褒めないすからね」

――プライベートでの大きな出来事として、キューバ旅行の直前、2016年4月にお父様が亡くなられました。作中でのお父様との対話も印象的です。できあがった文庫をご覧になって、お父様は何と言うと思いますか?

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若林 親父はね、褒めないすからね。読んでも何も言わずにって感じだと思います。もしかしたらキューバのボサノバとか、音楽のことはすごく聞いてくるんじゃないかなとは思いますね。

 親父が亡くなる2カ月ぐらいのことは、かなり強烈な経験だったんです。病院に行ったり、自宅に帰ってきた親父の横にいたり……。

――寝たきりの期間もあったそうですね。

若林 そう。本も、ページをめくるだけで息があがっちゃうから、残されているのはテレビだけなんだなって思ったり。

©️文藝春秋

 東京にいると、人生の長期のデザインを考えるじゃないですか。システムとか、スペック、っていう言葉もそこから生まれるでしょ。それで、そのゴールにたどり着けるかって、今の自分と比較すればするほど、自己肯定できなくなっちゃう。僕はそれを繰り返してきた。でも、親父が死んでからは、1日の感覚が変わって、今できることは楽しもうって思いました。それで夜中に1人でスリーポイントシュートを打ちに行ったりしてるんですね(笑)。