菅義偉政権で霞が関支配がどう変わるのか――。主要官庁が固唾を呑んでいる官僚人事は、予想された通り、まず安倍政権下で権勢を振るってきた経産省出身の官邸官僚たちが官邸を去った。なぜか首相補佐官兼政務秘書官だった今井尚哉だけは内閣官房参与という肩書を残しているが、コロナ対策を担ってきた経産省経済産業政策局長の新原浩朗や事務秘書官だった佐伯耕三はご用済みとなった。
外交音痴の菅首相のもと、息を吹き返した外務省
そんな権力構造の変化のなか、今井をはじめとした経産官邸官僚たちに外交の場を奪われてきた外務省が、新政権で息を吹き返している。外交音痴と揶揄される菅首相だけに、外務省としてはむしろやりやすい。必然的に存在感が増すのは頷けるところではあるが、人事配置にもその傾向が出ている。
まず注目されたのは、新首相の最も信頼の厚い外交官である北米局長の市川恵一だ。1989年に東大法学部を卒業して外務省入りした54歳。もとはといえば、2012年12月に菅が官房長官に就任したとき官房長官秘書官となり、菅の信頼を得た。18年7月米国公使に昇進する。
菅は昨年4月に改元を記者会見して“令和オジサン”と評判を呼び、その勢いに乗って黄金週間にホワイトハウスデビューした。その米国初訪問のときの段取りをしたのが市川にほかならない。ある外務省関係者によればこうだ。
「在米日本大使館の市川チームがマイク・ペンス副大統領をはじめ、ホワイトハウスの主要閣僚たちとの面談のアポ取りをし、菅さんの外交デビューを演出したのです。それで菅さんはますます市川を気に入ったのでしょう」
市川は今年7月に省内の最年少局長として北米局長に抜擢されたばかりだ。実はそれも菅人事だといわれている。安倍政権におけるこれまでの対米外交では、政務秘書官の今井が「独立行政法人日本貿易振興機構」(JETRO)のニューヨーク事務所を使って米国情報を収集し、国家安全保障局長の北村滋のポンペイオ国務長官ルートで根回ししてきた。一方、菅政権では従来のように在米大使館が中心となり、対米外交を担いそうだ。首相就任後のトランプとの電話会談はもとより、米国との折衝に市川は欠かせない。外務省は、外交の不得意な菅のおかげで主導権を取り戻した、といったところだ。