2.霞が関は「ブラック」か?
霞が関が「ブラック」だと言われて久しい。私もずっとそう口にしてきた1人だし、それ自体にウソはない。上司とか、怖い人はめちゃめちゃ怖い。不合理な人はどこまでも不合理である。偏差値の高い高校でグレる奴が半端なくグレるのと同様に、なまじ個々の処理能力がある程度高いがゆえに、「俺の時代はこのくらい当然だった」と上司はハイボールを容赦なく叩きつけ、部下もそれになんとかくらいつこうとする雰囲気がある。
それが日常的に繰り返されると、パワーハラスメントの境目がわからなくなる。瞬間を切り取れば「いや、それ、絶対まずいでしょ」ということが多々起こる。
私は深夜、帰ろうとしたところで、ちょうどこし餡のたっぷり入った月餅を食べていた上司に見つかって「小豆の色は紅いのに、こし餡が黒いのはなぜか? 調べろ」と言われたことがある。別の日には「白髪が白くなる理由を調べろ」との課題が出た。
余裕さえあれば、興味がわくお題かもしれない。だが、昼間の財務省は戦場なのだ。
「次官室、呼び込みでーす」
その一言で部屋全体が殺気立つ。財務省の事務次官に説明したい事項がある場合には、予め次官室にその旨をお伝えしておく。そうすると、前の案件の次官に対する説明が終わった段階で、次官室付きの秘書さんから私たちの課に電話で知らせてもらえるのだ。「次官室が空きました。お次、どうぞ」と。
緊張と怒号の自転車操業
次官に過不足なく説明すること。当然、来るであろう質問に答えを用意すること。その根拠となる資料をさっと差し出すこと。優秀なキャリア官僚の上司たちは、そのために頭を最高速度で回転させて、私たち係員に次官室に持ち込むべき資料について矢継ぎ早に指示を出す。
「一式、持ってきて!!」「何部ある?」「足りねーよ!!」「遅い!!」「もう間に合わない!!」「あとで次官室に差し入れて!!」
次官室用の資料なんて、そんな大事なものは前もって用意すべきだと思うでしょ? もちろん、私たち係員だってわかっている。だけど、そんな余裕はないのだ。常に自転車操業なんだから。
事務次官に説明をする直前には、ヒエラルキー的に次官の下に位置する主税局の局長に対して同じ案件をレクチャーした。そこで、局長のコメントを受けてきた課長が、それに沿って資料を修正するよう指示を出した。その手書きの指示を読み取って、考えながらパソコンに打ち込んで、間違いがないように確認をして……。そうしていたら、デスク脇の電話が鳴って、次官室から呼び込まれてしまって……。
息継ぐ間のない緊張、飛び交う怒号、誰かが怒りに任せて叩きつけた電話の受話器のガッシャーンという音。そんな日常の中を若手官僚は生きていた。で、なんとか仕事を終わって帰ろうとしたら、「小豆の色」とか「白髪の理由」とか本気とも冗談ともつかない無理難題が降ってくる。