安倍晋三の強力な後押しで総務大臣に就任
菅は06年9月に発足した第一次安倍晋三内閣で総務大臣に就いた。当選4回目の初入閣であり、しかも新設された総務省という主要閣僚就任だ。それはやはり安倍の強力な後押しがあったからだろう。
総務省は奇しくも第一次小泉政権のスタートした2001(平成13)年の中央省庁再編により、自治省、総務庁、郵政省を統合して設置された。それまで調査やデータの取り集めが主業務だった総務庁とは異なり、旧内務省の流れをくむスーパー官庁と呼ばれる。発足した総務省が担う役割は、むろん郵政民営化だけではない。総務省は地方分権など地方自治体のあり方や放送事業など幅広い行政分野を網羅している。
たとえば放送事業を所管する総務大臣は、放送法に縛られたNHKや民放各局に対する絶大な権限を握っている。
〈総務大臣は、協会に対し、放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送を行うべきことを命ずることができる〉
放送法三十三条一項〈国際放送等の実施の命令等〉では、こう規定している(07年に改正)。安倍政権発足と同時に総務大臣になった菅は06年10月、すぐさまこれを使ってNHKに命じた。
公共放送に対する政治介入も?
「北朝鮮による日本人拉致問題にとくに留意すること」
北朝鮮まで届くNHK短波ラジオ国際放送で、日本政府が救出に向けて頑張っているという内容を拉致被害者向けに流せという命令だ。とうぜんのごとく報道の自由の侵害だと非難が湧き起こったが、菅自身はこれも馬耳東風の態だった。
「放送法という法に則った行為であり、番組内容を指示したわけではない」
〈NHKは国際放送の放送番組の編集に当たっては、海外同胞に適切な慰安を与えるようにしなければならない〉という放送法四十四条に即した放送命令(同じく07年に改正)だと、菅は得意の原理原則論を曲げない。しかしその腹の底からは、公共放送に対する政治介入の意図が見え隠れしていた。
安倍と菅の連合軍は、やがてNHKの運営にも介入するようになる。