「げそ天」には3つのタイプがある
立ち食いそば屋や大衆うどん店でお目にかかれる「げそ天」には、大きく3つのタイプがある。1つ目はすらっとした長めの「美脚タイプ」でこれは全国でみかける。2つ目はがっつり頬張る「かき揚げタイプ」で、東京近郊の立ち食いそば屋の定番である。そして、3つ目が「ミックスタイプ」で、こっそりげそがいるタイプである。それぞれの特徴とおいしいげそ天の大衆そば屋をみていこう。
大衆うどん店などでよく登場する全国区の「美脚タイプ」
まず、1つ目は「美脚タイプ」。このタイプは胴体から切ったげそを1本とか2本とかに切りわけて、長い美脚のままコロモをつけて揚げるタイプである。
関西や九州など、また、讃岐うどん店でよく見かけるあのタイプである。「スルメイカ」で作られることが多い。ただし、難点がある。噛み切りにくいのである。コロモが脱げてしまって素足になってしまうことが多い(多くの人はそんな事は考えて食べていませんが…)。
ところが驚いたことには、近年、スルメイカの高騰とコロナ禍による売り上げ減少により、「美脚タイプ」を置いている店が激減している。問い合わせてみると、現在、東京の丸亀製麺では、品川店とハマサイト店、武蔵境店で不定期で販売しているのみという。早速、2月最後の日曜日に品川店に行ってみたのだが販売していなかった。ハマサイト店は定休日で空振り。しばらくはあの美脚に会えないようだ。
東京近郊の立ち食いそば屋の定番の「かき揚げタイプ」
2つ目が、いわゆる「かき揚げタイプ」である。東京近郊の立ち食いそば屋で、「げそ天そば」人気に火をつけたのは、先述した通り、古参店の「六文そば」である。こちらではアカイカ(ムラサキイカ)を使っている。スルメイカより太く、歯ごたえがよい。
東急大井町線の中延駅にある「六文そば」では「げそ天そば」がダントツの人気である。毎朝、「げそ天」を揚げているのだが、ちょうどその時間に改札を出ると、あたりに「げそ臭」が漂っているので、どうしても店に吸い込まれてしまう。これは須田町本店でも同じで、店に近づくにつれて、「げそ臭」の洗礼を受ける。恐るべき「げそ臭」トラップである。
同様に「げそ臭」で有名な日暮里の「一由そば」では、注文の半数近くが「げそ天そば」だというから驚きである。揚げられた「げそ天」が大量に積みあがった光景は圧巻である。こちらの名物トッピングメニュー「ジャンボげそ天」は、顎が疲れるほどでかい。
以前、私の友人が「一由そば」でバイトしたことがあるのだが、その時、大量の「げそ天」を揚げたことがある。大きなフライヤー一面に「げそ天」を並べて揚げたそうだが、大量にお湯が跳ねあがって、あまりの火傷の恐怖にバイトは1日で撤退したそうである。
小伝馬町の「田そば」の「げそ天」はやや小ぶりだが、コロモは少なくからっときれいな色に揚げられており歯ごたえもよい。抜群の旨いつゆとそばにのった「げそ天そば」は上品な味わいである。いつ行っても、どの天ぷらにするか迷う天ぷらの名店でもある。ただ、いまは定番メニューではなく、げそが入荷した時のみ店頭に並ぶそうだ。
写真はないが、台東区千束にある「山田屋」の「げそ天」は、大衆そばの頂点といってもいい。記憶に残る旨さである。また、葛飾区亀有の亀有公園の前にある「鈴しげ」の「げそ天」はやや小ぶりながら、からっと揚がっていてなかなかよい。こちらもアカイカを使用している。コリッとした食感がたまらない。
新橋駅改札の前にある「かのや」のげそ天もなかなか食べ応えがある。こちらはスルメイカを使っているようだが、立体的な揚げ姿に感心する。出汁の効いたつゆに、やや太めの生麺茹で上げのそばは秀逸だ。
コロナ禍で3月7日まで臨時休業中の市川駅すぐの「鈴家」の「げそ天」はまたすごいビジュアルである。どんぶり一面に大きな「げそ天」がのって登場する。こちらではいったんげそをボイルしてから天ぷらにしている。こちらも顎の鍛錬には十分すぎるコリコリ感である。
野菜のかき揚げに「げそ」が点在する「ミックスタイプ」
3つ目が、「ミックスタイプ」である。こちらではやや細めのイカのげそを細かく切って、野菜のかき揚げに入れるタイプで、食べるとほんのりとげその香りが広がるのがなかなかよい。
東急大井町線中延の駅前にある「大和屋」の「げそ天」は、細目に切った玉ねぎとげそを合わせたかき揚げである。「六文そば」の「げそ天」とは趣が異なり、こちらも人気となっている。