小麦粉は大衆そば誕生の過程にはなくてはならない存在であり、そば誕生の前からうどんは先行して食べられていた(諸説あります)ことから、自分は常にうどん文化をリスペクトしている。埼玉・群馬・栃木・茨城などの北関東地域は小麦とそばの生産が混在しており、大衆そばの源流の地域だと考えている。その話はまた後日するとして、今回はその小麦粉やうどんに魅了された女性の話である。
うどん食べ歩きの本を出版したり、マスコミで解説する人は少なくないと思う。しかし、さらに踏み込んで、食べる側から提供する側に身を置き、その旨さを広めていこうという気概の持ち主ということになるとそう滅多にはいない。井上こんさんはまさにその代表的存在といってよい。日本を代表する若きうどん研究家の1人である。以前、トークショーに一緒に参加したり、いろいろ世話になった方でもある。
2020年12月にオープンした「松ト麦」
井上さんが自ら経営するお店「松ト麦」が2020年12月に世田谷区野沢にオープンした。以前は世田谷線の松陰神社前でスナックを間借りして週1程度で営業していたのだが、いよいよ本格的に小麦とうどんに向きあう場所ができたという。早速訪問してみることにした。
田園都市線駒沢大学駅から環七方向に歩いていく。環七を右折して、都立大学方向へ左側を歩いていくとビルの地下1階に「松ト麦」はひっそりと佇んでいた。訪れた日は定休日であったが、井上さんは仕込み作業中で、笑顔で迎えてくれた。
店内はカウンター8席程度の広さだが、背後は奥行きが広く、製麺室もしっかりと完備されている。しかもすごく明るい店である。「松ト麦」という店名は、松陰神社前で始めたから「松」で、小麦の「麦」と合わせて命名したという。お洒落な名前である。
この「松ト麦」という店で井上さんは何をしたいのか単刀直入にきいてみることにしたのだが、その前に、なぜ食べる側から作る側へ行ったのかを聞いてみた。するとそこには「なるほど」と納得できる深い理由があった。