なぜ井上さんはうどんを食べる側から作る側へ行ったのか?
井上さんがうどんを食べ歩いて記事にしたり、解説したりという仕事をしていた時、全国各地でうどんを食べていると、あまりにも多種多様な味があることに気がついたという。そして、その味の背景には地域の小麦の特徴が反映されていることがわかってきた。
「そういう小麦粉を手に入れて、自分で打って食べてみると、目を見張るくらいうまかったんです。そこで、自分がハマったうどんと小麦の世界を、どうにか多くの人たちにわかってもらうような活動をしなければならない。そのためには作って提供するのが手っ取り早いと考えるようになった」と井上さんはあっけらかんと言い放った。そう簡単にできることではないと思う。店に着いて5分で、すでにどっぷりと小麦トーク炸裂である。
「もちろん、原稿の執筆やマスコミ対応やイベント活動などもお店と並行して行っていく予定」という。とてもアクティブな井上さんである。
さて、「松ト麦」ではどんなことを実践しているかをインタビューしてみた。その内容は大変濃く、興味深かったので、列記していこうと思う。
「松ト麦」ではうどんに適した国産小麦18種類を集めた
「松ト麦」ではうどんに適した小麦の品種をそろえている。井上さんが促すように店の壁を指差すのでみてみると、そこには18品種の小麦の名前がずらっと短冊に手書きで書き込まれて並んでいた。
もち姫、農林61号、チクゴイズミ、ニシホナミ、きぬの波、きぬあずま、さぬきの夢2009、伊賀筑後オレゴン、イワイノダイチ、江島神力、ネバリゴシ、ふくほのか、さとのそら、つるぴかり、ユメセイキ、きたほなみ、きぬあかり、あやひかり。
「この子たちが、いまうちで提供しているうどんに適した小麦の品種です。きたほなみは収穫量もありますが、他は相当少ない流通量です。三重県の伊賀筑後オレゴンや沖縄県の江島神力あたりはさらに希少品種です」
自分が知っているのは農林61号、さとのそら、あやひかり位だった。こんなに希少種の小麦があってうどんに適しているというのはある意味驚きである。