ネバリゴシを使った醤油うどんを食べてみると…
ちょうど、ネバリゴシで打ったうどんがあるというのでいただいてみることにした。ゆで時間は約10分。やや麦色をしたピカピカのうどんが登場した。うどんの耳(生地の端っこの部分)も一緒に添えてある。それにだし醤油で有名な香川県の鎌田醤油を2回しうどんにかけてもらい食べてみた。たしかにこれはすごいネバリゴシだ。ねっとりとしてもちっと吸いつくような食感である。こんな食感のうどんは今まで食べたことがなかった。でんぷんのマジックとでもいえばいいのだろうか。
「吉田のうどんのように、強力系の粉で作る硬いうどんもあれば、博多うどんのようにじっくりと加熱してふわっとしたうどんもあります。このネバリゴシのうどんもじっくり熱が伝わっていて、でんぷんの特性が十分に引き出されたうどんです。うどんのおいしさは、その人に合う/合わないみたいな部分は確かにあると思います」と井上さんはさらに熱く語り続ける。
自分と一緒に成長して行くお客さんの反応が楽しくてたまらない
「松ト麦」を始めて一番楽しいことは何かと聞いてみると、開口一番次のように話して来た。
「とにかく、お客さんの反応が楽しくて面白くてたまらない」という。お客さんが食べなれてきたうどんと全くの別物のうどんに出会った時の衝撃のような反応が面白いのだという。かつて自分が食べて感じた感動を、お客さんが今体験しているのだと思うとすごく嬉しいというわけである。
それとプロの方、つまり、製粉会社の方や有名うどん店の店主、製麺所の方などがかなり来店されているという。
最近はそういう常連さんたち同士でうどん話に勝手に花が咲くようになってきたとか。そして、初めてのお客さんにも、ていねいにプロのレベルの話を教えてくれたりするという素敵な循環が生まれているというのだ。井上さんの言うところの、まさにここは「うどん沼」なのである。
サブスクを始めた目的は「うどんをもっと好きになってもらうこと」
「松ト麦」では、週半分以上ある定休日を使って、UDON LABというサブスクも運営している。月に1度、2種類のうどんを提供している。使用した小麦の解説冊子が同封されている。自ら執筆したり、時にはプロの製麺製粉関係者に解説をお願いして、デザインしたかわいい冊子で、継続すればデアゴスティーニのように冊子が増えて勉強にもなる。食べて学んでうどんの違いを楽しむことができるというわけである。コロナ禍で需要はあるようだが、本来の目的は「小麦の品種も知ってうどんをもっと好きになってもらうこと」だそうである。
お客様へのメッセージも熱い
最後にお客様へのメッセージを井上さんからいただいた。
「松陰神社前の時代からお見えになっている常連さんも多くいらっしゃいます。プロの方もそして初めての方も、松ト麦にきていただいて、知らないうどんに会って、もっとうどんを好きになってもらい、好みのうどんに会えるといいかなと思っています。狭い店なのでご迷惑をかけてしまうことがありますが、是非、お越しください」
うどんが好きで好きでたまらない激アツ井上こんさんが、うどん好きをさらに増やすべく始めた実験工房的な店が「松ト麦」というわけである。コロナが明けたら、小麦の系譜図に沿ってうどんを食べ比べるイベントを開催したいという。ここはまさに「うどん沼」の真っ只中なのである。今度はそばの面白ネタをたくさん仕入れて訪問しようと思う。
写真=坂崎仁紀