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 ただ当時、早指しというとNHK杯のように秒読みが30秒のものが多かった。30秒だと間違える確率が大きくなりすぎるので、そこは1分にしようと。そうして生まれたのが、今のバランスです。

──そこまで考え抜かれていたんですね……。

桑高:
 しかも、公開にしたいというのもありました。そうすると……人間の集中力は映画1本分くらいしか続かないだろうと考えると、1局だいたい2時間前後。それでちょうど終わるような感じで設計しました。

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──指すほうではなく、観るほうのことを徹底的に意識して作られた棋戦が朝日杯だったんですね! 今のお話をうかがうと、藤井二冠が朝日杯で注目された理由が、よくわかります。必然だったんですね……。朝日杯というと、アマチュアと若手プロが一斉に対局するところも見所です。

※朝日新聞デジタル「藤井五段初優勝、朝日新聞が号外 朝日杯将棋オープン戦」2018年2月17日掲載。

桑高:
 あれもコロナ禍で公開できなくなってしまって悲しいんですが……ああいうプロとアマの対局が身近に観られるというのは、見た人にとっても印象に残ります。そして何より対局者にとっても『あれは緊張しました!』『あれは憶えてます!』と後になってからもプロから言われますし。

──それこそ、今期の名人挑戦を決められた斎藤慎太郎先生も、朝日杯でアマチュアに敗れたことがトラウマになり……翌年はそれを克服するために、ヨーグルトしか食べずに体調を整えてリベンジを果たすと。そこまで追い込まれる棋戦というのは、なかなかありませんよね?

桑高:
 そうなんですよ! プロ入り直後にある対局で、しかも公開で、相手もアマチュアで……負けられないというプレッシャーのなかでプロは戦う。逆にアマチュアは、勝てば『やったー!』って感じですし、会場はみんな味方だし(笑)。

──最強アマ軍団VS若手プロ集団の団体戦みたいな雰囲気になりますよね! それこそ朝日新聞将棋取材班の記者の方々は学生将棋で活躍した方もいらっしゃいますし、『今年はアマが○勝!』みたいな感じで記事も盛り上がってます(笑)。