昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/05/11

張りと硬さのある讃岐うどん

 その前に、讃岐うどんと武蔵野うどんの違いを少し予習しておこうと思う。しかし、その違いを説明するのは意外とむずかしい。専門家のご意見もあろうかと思うが簡単にまとめてみると次のようである。

 いずれも中力粉を使うが、讃岐うどんは「さぬきの夢2000」などの国産小麦粉と「ASW」などをブレンドした小麦粉を使うことが多く(地粉だけで打つ店もあります)、熟成時間が長く、茹で時間もやや長い。うどんはもちっとした張りと硬さがある。一方、武蔵野うどんは地粉の全粒粉を使うところが多く、加水が少なく、麺がゴワッとして硬く、全粒粉の場合ややベージュっぽい色がある。食べ方も讃岐うどんは白醤油といりこを使った透明のつゆの「かけ」や「ひやかけ」などが一般的である。武蔵野うどんは濃口醤油を使った甘めのつゆにうどんをつけて食べる「肉汁うどん」のような「つけうどん」が多い。

 そんなことを頭に入れながら、いくつか質問をしてみることにした。少年時代から野球をやってきた條辺さんは、うどんも小さな頃から食べ親しんでいたようだ。

プロ野球選手とうどんを作って商売することはどっちが大変?

――野球とうどん業は180度違う世界だと思います。條辺さんの中ではどんなつながりがあったのでしょうか?

條辺:出身地の徳島では徳島県阿波市の郷土料理の湯切りうどん「たらいうどん」があり、うどんが大好きで小さい頃からよく食べて、野球をしていました。

 現役時代もキャンプ地の宮崎でもよく食べていたし、読売ジャイアンツ球場から近い宮前平にあった「讃岐うどん綾」にも練習の合間によく行っていました。すごくうまかった印象が残っていました。

小さい時からうどん好きだったという條辺さん

――現役引退後、本格的な讃岐うどんの道に進んだときは、「つらいなあ~」とは思わなかったのですか?

條辺:それがあまり思わなかったんです。うどんが好きだったこともあると思いますし、修業先の香川県の「なかにしうどん」の大将がすごくいい方で、丁寧に教えてもらい、技術を仕込まれていったこともあると思います。本当に感謝しています。そして、讃岐うどんは奥が深いです。開業して14年目になりますが、いまでも気づくことも多い魅力的なうどんです。

――プロ野球選手とうどんを作って商売することと、どっちが大変ですか?

條辺:そうですね、どっちも大変です。ただ、自分の場合、プロ野球時代の6年間は独身でした。うどん屋を始めて家族が増えたので、そういう意味ではうどん屋の方が背負うものは多かったかもしれません。

武蔵野うどんの地元で、讃岐うどん

――開業後、マスコミでも随分取り上げられました。その後の経営は順調だったのですか?

條辺:開店してからはすごく忙しかったですね。ちょうど讃岐うどんのブームが来ていて、大勢のお客さんが来てくれました。しかし、半年くらいするとすっかり来客が減ってしまいすごく焦りました。

――その原因はなんだったのでしょうか?

條辺:地元の人にとっては、うどんは武蔵野うどんです。「肉汁うどん」やゴワッとしたあの地元の味ですね。本場の讃岐うどんには慣れていなかったということもあると思います。

 最初の頃は、地元のお客さんに「つゆのいりこが強い」といわれたこともありました。

――何か工夫とか対策はとったのですか?

條辺:これが修業した本場の味だったので変えることはしませんでした。いつかわかってくれるという思いもありました。ただ、いろいろ試行錯誤は続けていきました。

 開店当時は「かけうどん」、「わかめうどん」、「ひやかけうどん」、「つけうどん」でスタートしました。「かけうどん」のつゆは本場の味を守りつつ、新しいメニューを増やすことにしました。「とろたまぶっかけうどん」を3年後にメニュー入りさせました。

 これはいりこや鰹節などの出汁は共通で、返しに濃口醤油とやや甘めの味を加えたもので今人気になっているメニューです。