IPCC第6次報告書で突き付けられた「赤信号」
この議論をまとめあげたのが2018年の「1.5℃特別報告書」である。こちらは「現在の進行速度では、地球温暖化は2030~2050年に1.5℃に達する」としており、これを抑えるためには「社会のあらゆる側面において前例のない移行が必要」として、CO2排出量の2030年までの45%削減、2050年ごろの実質ゼロ(カーボンニュートラル)の必要性を説いたのだ。
これが2020年の「カーボンニュートラル・ラッシュ」にいたるまでの背景である。つまり、今日本を騒がせている「2050年のカーボンニュートラル」は、この30年をかけた気候科学の叡智がたどり着いた結論だったということである。
ちなみにパリ協定は、各国にNDC(Nationally Determined Contribution)と呼ばれる削減目標を5年毎に提出することを求めている(拘束力はなし)。2020年が、日本を始め、世界がカーボンニュートラルを宣言する「ラッシュ」となったのは、ちょうどこの年が協定から5年を経過するタイミングであったからだ。
そして、本書の執筆中の2021年8月に発表されたIPCCの第6次評価報告書では、「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことに疑う余地はない」と、ダメ押しの一打が放たれた。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「人類への赤信号だ」と指摘している。
これが2021年時点における、気候変動をめぐる現在地であり、世界のリーダーたちが共有している一つのナラティブである。つまり、今やこの目標をめがけて、政治、ビジネス、テクノロジー、そしてお金までもが動いているということだ。
【後編を読む】洋上風力発電が“原発45基分の発電量”をもたらす? 日本のエネルギー会社が見せたかつてない“本気”