「二酸化炭素の排出が地球温暖化を招いている」という話は、環境問題について論じる際に必ずと言ってよいほど俎上にあげられる。そうした現状において、世界各国が目指しているのは「カーボンニュートラル(排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする)」の実現だ。
しかし、「カーボンニュートラル」は環境にとって本当に意味のある取り組みなのだろうか……。ここではNewsPicksニューヨーク支局長の森川潤氏による『グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』(文春新書)の一部を抜粋。世界各国の環境についての取り組みを紹介する。(全2回中の1回目/後編を読む)
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なぜ、2050年カーボンニュートラルなのか
なぜ今世界はこぞって「カーボンニュートラル」に走っているのか。
これを知るため、そして世界がどこに向かっているのかを把握するためには、まずそもそもの気候変動をめぐる議論がいかに進んできたのかを振り返る必要がある。
まず、地球温暖化の原因として、「人間活動(Human Activity)」が最初に大きく取り上げられたのは、1990年のことだった。1988年に創設された国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、初めてまとめた第1次評価報告書で「人為起源の温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響をおよぼす気候変化が生じるおそれがある」と指摘したのである。世界の第一線の研究者たちが発したこの警告は大きなインパクトを与えたが、まだ、この時点では「観測されている気温の上昇は、大半が自然の変化によるものである可能性もある」とも指摘されていた。
その後、1995年の第2次評価報告書では「全球平均気温および海面水位の上昇に関する予測から、人間活動が、人類の歴史上かつてないほどに地球の気候を変える可能性がある」とその確度を高め、2001年の第3次評価報告書では「過去50年間に観測された温暖化のほとんどが人間活動によるものであるという、新たな、かつより強力な証拠が得られた」とさらに踏み込んだ。
2007年の第4次評価報告書からはかなり断定的になっていく。3年の歳月をかけて、約4000人の専門家がかかわりまとめた報告書は「気候システムの温暖化には疑う余地がない」、「世界の温室効果ガスの排出量は、工業化以降、人間活動により増加しており、1970年から2004年の間に70%増加した」と指摘した。この年、IPCCはドキュメンタリー映画『不都合な真実』(2006年)に主演したアル・ゴア元米副大統領とともに、ノーベル平和賞を受賞する。