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「正しい指導であれば、息子がなくなることはなかった」

 冒頭の言葉は、アカネさんが、2021年12月21日に文部科学省の記者クラブで発言した言葉だ。

文部科学省での記者会見の様子

 この日、アカネさんは、「安全な生徒指導を考える会」のメンバーの1人として、初等中等教育局児童生徒課長らに要望書を手渡した。基本書とされる「生徒指導提要」(以下、提要)の改訂議論が進む中で、不適切指導に関する記述が不十分なことから、末松信介文科大臣宛に、

(1)児童生徒には適切な指導を受ける権利があること

(2)生徒指導を行う際には、児童生徒に弁明と意見表明の機会を与えることの重要性

(3)指導の手順や配慮が実行されることの重要性

(4)不適切指導が児童生徒に対し心理的な影響を与え、不登校や自殺につながることがあること

 を指摘しつつ、不適切指導を受けた当事者や家族(遺族)の声を聞くことを要望した。

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「不適切指導が未然に防げるように検討してほしいという思いで要望しました」(考える会)

 もともとの提要は2010年に作成された。有識者による協力者会議で議論が進められており、文科省は郵送かメールでの要望書を受け付けていた。すでに、5団体が要望書を提出している。ただ、「考える会」も要望書を作成していたものの、文科省への手渡し及び、直接の説明にこだわっていた。

「手渡すことで、私たちの思いを文科省に伝える機会が得られると思っていました」(同前)

 一方、自民党の「チルドレンファースト勉強会」では、「こども庁」の設置に向けた勉強会を重ねた。その中で、指導死遺族から、生徒指導が理由、あるいはきっかけで自殺や不登校に至る現実について話を聞いていた。総裁選前、地方議員たちが「こども庁の設置を求める要望書」を提出。「学校現場で生じている課題」として、いじめや自殺、教員のわいせつ行為、体罰とともに「指導死」を盛り込んだ。

 そのため、「考える会」では、同勉強会の呼びかけ人の1人、山田太郎参議院議員に連絡をとるなどして、文科省への要望書の手渡しでの提出を模索した。山田議員は、児童生徒課長らが同席する機会を作り、同日、「指導死」で子どもを亡くした遺族を同席させた中での要望書提出が実現した。アカネさんの姿もあった。

「宿題忘れて叱責されるのは理解できるが、正しい指導であれば、提要が浸透していれば、少なくとも亡くならなかったと思う。さらに充実させて浸透させていただければ、児童生徒も教師も守れるようになると思います」(アカネさん)

亡くなったサトルさん(仮名)

 要望書の手渡しにも同席した。児童生徒課長は、提要の議論の中で、不適切指導の項目を含めることを検討するとした。

「指導死」という言葉は、指導死親の会の大貫隆志氏の造語だ。「不適切な指導」には「体罰」も含まれるが、体罰や暴力のない指導(暴言や人間関係の切り離し、長時間の事情聴取、トイレに行かせない、1人にさせる)も含まれている。しかし、「指導死」の正式な統計はなく、文科省は公式には「指導死」という言葉を使用していない。党の文書の中だが、「指導死」が政治課題の一つとして取り上げられたのは、初めてのことだ。

 サトルさんへの指導には体罰も厳しい懲戒もない。しかし、生徒に対する暴言を含めた指導が、自殺を招く結果になった。不適切な指導をいかになくせるか。文科省には、その明確な指針を示すことが求められている。

写真=渋井哲也