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「展示室を開いていいのか」シベリアの都市と友好締結してから46年…“ロシアとの友情”を深めてきた自治体の苦悩

「展示室を開いていいのか」シベリアの都市と友好締結してから46年…“ロシアとの友情”を深めてきた自治体の苦悩

岐路に立つ“ロシア交流” #1

2022/05/19

genre : 社会, 国際, 歴史

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「ロシアのロの字を聞いただけで胸が悪くなる」

「シェレホフ市側は今も交流に熱心で、次の催しの打診が来ています。双方で雪が解け、春の芽吹きの季節を迎えると、毎年送られてくる挨拶状も届きました。ただ、戦争を受けての住民感情を考えると、どうしていいのか」。能美市役所の前田さんは言葉少なだ。

 旧根上町内で住民に話を聞いたところ、「こんな時だからこそ、住民交流を絶やしてはいけない」(80代女性)「交流を進めることで、逆にロシアの人々に世界がどう見ているか知ってもらう機会になる」(60代男性)という声の一方で、「ロシア軍の残虐行為は酷すぎる。ロシアのロの字を聞いただけで胸が悪くなる」(70代男性)と話す人もいた。

能美市の中学生が返した年賀状。同じ年代でもロシアの子とはかなり画風が違う

 能美シェレホフ親善協会の高田理事長は「国家の政治や戦争では人間の欲望や闘争本能がむき出しになります。戦争を起こさないためにも住民同士の友達付き合いが必要なのですが、ロシアの侵攻が始まってからは、会員を辞めたいという人もいて……」と表情を曇らせる。

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閉鎖された交流展示室

 旧根上町内にある根上学習センターには、シェレホフ市との交流展示室がある。これまでの歴史を記した年表や、使節団が交換した土産、シェレホフの文化を知る物品などが置いてあるのだが、能美市はロシアの侵攻後、閉鎖してしまった。

 ロシア語で「友情の部屋」と書いてあった看板を外し、展示室外に飾ってあったバイカル湖の風景画や、結婚式の衣装をまとった男女のマネキンも、室内に入れて鍵を掛けた。根上学習センターに行っても、そこに展示室があるとは気づかないほどだ。

 市民から「今の時期に展示室を開いていていいのか」と疑問を呈する声が数件、市に寄せられたため、庁内で議論した結果だという。

シェレホフ市との交流の展示室。看板や絵画が取り外されて鍵が閉められ、ここに展示室があるとは思えない

 森元町長の訪ソから約60年。地道に積み上げてきた交流は今、大きな危機を迎えていると言っていいだろう。

 能美シェレホフ親善協会の会報は、森元町長が口癖にしていた「平和と友情」がタイトルだ。

 平和とは何か。友情とはいかにあるべきか。

 能美市民のみならず、私達にも突き付けられているのではなかろうか。

撮影=葉上太郎

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