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明確な「落ち度」はなかったのだろうが…

 引用が長くなったが、概要としては事実関係を認めたうえで、ワンオペは深夜帯で禁止しているもので、朝帯(5時~9時)には一部店舗でワンオペ勤務は行われている。しかし、不測の事態が起きた場合に備えて「ワイヤレス非常ボタン」を常時装着し、本部とすぐに連絡を取れるように指導していたが、山田さんはこの「非常ボタン」を装着していなかった。また、健康診断も受けておらず、持病の発見にも至っていなかった。山田さんが死亡する直前の労働時間は法定の労働時間内であり、過剰な無理をしていた事実はない、とのことだった。

 確かに、「すき家」には管理体制上、明確な「落ち度」はなかっただろう。しかし、直樹さんが訴えるように「もしあの時、妻がワンオペでなければ助かったかもしれない」と考えるのも、また“人情”ではないか。

すき家 ©️文藝春秋

「朝帯のワンオペ禁止」へ方向転換

「すき家」からは回答の4日後、5月29日に追加で以下の文章が送られてきた。

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〈お伝えさせていただいたとおり、すき家では、自社の経営指標に基づき労働時間を設定しています。企業として成長するため、日々売上向上に資する取り組みを進めていることは申し上げるまでもありませんが、このコロナ禍において外食企業にとっては、今までと異なる経営環境になっています。お蔭様ですき家については、そのコロナ禍でもお客様のご支持をいただくことができ、これに伴う入客数の増加により、朝帯(5時~9時)での複数勤務体制の状況は平日で6割、休日で8割まで増加させることができました。

 

 全店、全時間帯で複数勤務となるよう、お客様のご支持を受けながらさらに入客数を伸ばしていく方針でこれまで経営してまいりましたが、今回の山田さんの件、また貴社を含む数社のメディア様からの問い合わせを受け、事実関係の調査を進める中で、さらにスピードを上げていく必要があると強く認識した次第です。

 

 つきましては本件を受け、すき家の経営方針として、本年6月30日までに全店の朝帯(5時~9時)で複数勤務とすることを決定しましたので、追加のご報告をさせていただきます。

 

 追加のご報告となってしまった背景としては、今回のお問い合わせを受け、店舗へのヒアリングを進めていく中で、一部会社で把握していない事実がありました。貴社への説明を行う傍ら、把握した事実を踏まえ、並行してすき家としての方針検討を進めた結果、本日決定し、ご報告させていただく運びとなりました。

 

 当社としては、2014年に労働環境改善を行ったように、以降これまでも、また今後についてもより従業員にとって働きやすい労働環境を実現するべく経営努力をしていく所存です〉

 

すき家から送られてきた追加の回答

 今後、すき家では全店で朝帯のワンオペ勤務を解消していくという。直樹さんにこの件を伝えると、「妻はもう帰ってきませんが、妻が味わったような悲劇がもう繰り返されないよう、すき家さんには是非ともこの方針を実現してほしいです」と涙ながらに語った。

直樹さん ©️文藝春秋