「お客さんは“裸”より踊り子さんの“芸”を観に通っている」
一方で、劇場の減少に伴い「かえってショーの質が上がったという皮肉な側面もある」と谷口さんは言う。
出演の機会が減った分、ステージに上がり続けられるのは、人気のある一部の踊り子に厳選されるようになった。“芸を見せる”という意識が低い踊り子は、自然と淘汰されてしまうのだという。
「意外かもしれませんが、お客さんのほとんどは“裸”というより踊り子さんの“芸”を観に通っているんです。当然目利きの人も多いから、ショーに対して厳しい見方をすることもある。客の立場ながらに『自分たちが踊り子さんを育てている』という自負を持っている人が多いんですね。
もちろん若くて可愛い踊り子さんは一時、人気が出るけれど、芸がなければその人気も一瞬だけ。ほとんどは長続きしません。10年以上ステージに立っている踊り子さんは、やっぱり根強い人気があったりするんです」
ストリップの世界は「業界」ではなく「芸界」
谷口さんをはじめストリップ関係者は、ストリップの世界のことを「業界」ではなく「芸界」と呼ぶ。カテゴリーだけで見ると性風俗に該当するが、その根底にあるのは紛れもなく“芸”であり、踊りや衣装や音楽や照明など、ステージ上で披露するあらゆる要素に「魅せる」を徹底しているのが、ストリップの本質なのだという。
ショーの内容や見せ方、客層も時代と共に変わりつつある。
2000年代にAKB48に代表される「会いに行けるアイドル」がブームになると、劇場にも女性客や若者が目に見えて増えていった。その現象は、NHKをはじめとした数々のメディアでも取り上げられ、漫画家・菜央こりんさんによる『女の子のためのストリップ劇場入門』という書籍も出版されたほどだ。
それに伴い、「男性向けの視点が多かったショーも総合的なエンターテインメントに変化した」と谷口さんは言う。演目も、可愛らしいものやアートなもの、ロックなものやシュールなもの、伝統的なものや流行を取り入れたものなど、実に多様化している。
「ここ5年~10年は本当にステージが面白いです。踊り子さんも衣装もきれいだし、ダンスも演目もよい。風俗という『俗』のなかに一瞬の光を見るような、美をさらに昇華した芸術と言えると思います。
社会で人とのつながりが希薄になっている時代だからこそ、ショーを通じて垣間見える踊り子さんの人間性や魂の叫び、それを表現することの尊さがより伝わってくる。こんな場所は、ストリップ劇場以外にはないのではないでしょうか」