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「お客さんは“裸”というより“芸”を観に通っている」 30年間ストリップを撮り続けた写真家が見た“劇場のリアル”

「お客さんは“裸”というより“芸”を観に通っている」 30年間ストリップを撮り続けた写真家が見た“劇場のリアル”

写真家・谷口雅彦さんインタビュー #1

2022/07/25
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ストリップは庶民の大きな娯楽だったはずが…?

「印象に残っているお客さんもたくさんいます」と谷口さんは回想する。

「あるお客さんは、応援する踊り子さんが登場すると、タンバリンを叩いて場を盛り上げるんです。ところが、その最中もずっと壁の方を向いている。ステージの方をまったく見ないんです。あまりにも踊り子さんが好きなので、気恥ずかしくて裸を見ることができないんですね。『これは究極のファンだなぁ…』と思いました。いつも女装姿で来て、楽しそうに踊り子さんとおしゃべりしている人もいましたね。ストリップ劇場は、誰のどんな表現でも受け入れる寛容な場所なんです」

 そんなストリップ劇場の歴史は、戦後すぐに新宿で始まったとされている。最盛期には全国に約300もの劇場があり、人気の劇場には一日数百人~1000人以上の客が訪れていたという。

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かつては庶民の娯楽として数多くの劇場があった ©️谷口雅彦

 ある有名AV女優がストリップデビューした際は、劇場に客が殺到し、下の階に入っていた焼鳥屋の大将が「天井からほこりが落ちてきて商売にならない!」と激怒した逸話もあったという。庶民の大きな娯楽のひとつであったのだ。

 だが、2000年ころを境として、徐々に衰退がはじまった。娯楽の多様化や、ネット上での無料アダルトコンテンツの氾濫など、さまざまな要因が考えられるが、「コンプライアンスの意識の強化も大きかった」というのが谷口さんの見解だ。法令順守の考え方がより明確になることによって、それまでグレーゾーンで営業していた劇場が閉鎖に追い込まれたのだ。

「ある劇場で警察の抜き打ち調査が行われたことがありました。『風営法に違反している』ということで、社長が勾留され『劇場を廃止しなさい』と通達されたのです。

©️文藝春秋

 社長は2代目で、父の代からずっとこの場所で営業している。もちろん本人は納得がいかない。そこで不服を口にしたところ、通常は数日で保釈されるところを数カ月間も勾留されてしまった。結果的にその間に劇場は経営が傾き、つぶれてしまったのです」

 劇場を始めた時代の風営法では問題なくても、近年の法改正やその解釈の変化によって、違法と判断されたのだ。

 類似のケースは少なくなく、1998年から2021年4月までに60軒以上の劇場が摘発され、経営者、従業員、踊り子など数百人が逮捕されている。健全化が求められる社会風潮を受け、大衆の娯楽だったはずのストリップは徐々に社会の隅へと追いやられるようになったのだ。

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