実は過去10年で一度も定数を満たしたことのない「自衛隊の隊員数」。最前線で働く「士」と呼ばれる階級に至っては、充足率が79.8%にすぎない。このまま慢性的な人材不足が解決されなければ、60代の自衛官が最前線に立つ可能性も。

 今、自衛隊や警察が抱える問題を、ジャーナリストの河合雅司氏の『未来年表』シリーズ最新刊『未来の年表 業界大変化』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

自衛隊の人材不足が解消されなければ、待っているのは「恐るべき未来」だ。写真はイメージです ©iStock.com

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安全を守る人が大不足

 人口減少がもたらす公務員への影響は、国民の「安全安心」を守る自衛官や警察官、海上保安官、消防士といった職種も襲う。「若い力」を必要とする職務が多いだけにより影響は直接的だ。

 自衛隊の場合、2021年度は定数24万7154人に対し現員数は23万754人で、充足率93.4%だ。防衛省の「2022年版防衛白書」によれば過去10年で一度も定数を満たしたことがない。すでに慢性的な人手不足に陥っているのである。

©講談社

 指示を受けて最前線で働く「士」と呼ばれる階級に至っては、充足率が79.8%というのだから深刻だ。業務別では、とりわけ艦艇や潜水艦の乗組員、サイバー分野の人材が不足しているとされる。

 自衛隊は、冷戦の終結に伴い一部で組織のスリム化を図ってきた。近年は装備が高性能化している。情報通信技術の革新は少人数部隊による広域警戒を可能とし、部隊運用の即応力を高めた。先進各国では少子化をにらんで、軍隊の小規模化や高機動化に向けた取り組みを進めている。

 だが、こうした装備の技術革新による省力化には限界がある。しかも、ロシアのウクライナ侵攻によって国際情勢は大きく変わった。とりわけ日本の場合には、尖閣諸島をめぐる中国の脅威や台湾有事が現実的な危機になり始めている。中国のみならず、ロシアや北朝鮮の軍備増強も顕著となり、東アジアをとりまく安全保障環境は戦後最悪と言われる。

 さらに、自然災害が多発かつ大型化し、「人海戦術」に頼らざるを得ない被災者の救助活動は増えている。被災後の行方不明者の捜索は対象エリアが広範化し、活動期間が長くなっている。定数を減らすどころか、増やす必要があると思えるほどだ。こんなタイミングでの出生数減少スピードの加速は致命的でさえあり、日本は極めて危うい。