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若者が大学や会社を辞めなきゃいけない実態を知って、「これはちょっとおかしくないか」と思うようになった

――20年間はとても長いですものね。松村さんがヤングケアラーであったことを公表されたのはいつ頃でしたか?

松村 たしかマスコミの皆さんに公表したのは、2014年の「週刊朝日」の取材だったと思います。ただその前に、祖母が特養に入る前にお世話になっていたソーシャルワーカーさんから「あなたの体験を講演会で話してくれませんか」とお願いされたことがあって、何人か登壇される中で僕もお話をさせてもらいました。

――周囲の反響はどうでしたか。

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松村 「ご苦労されたんですね」という労いの言葉や、「私もそうでした」という声が届くようになりましたね。自分と同じような境遇の人を「ヤングケアラー」というのだと知った当時は正直、僕はそれが当たり前のことだと思っていたんですよね。歳をとった両親や家族のサポートをするのは、世話になった子どもたちや若い世代の務めじゃないかと。

 ただ、安定的にケアするために若者が進学や就職を辞めなきゃいけない実態を知って、「これはちょっとおかしくないか」と思うようになったんです。

 

――近年のヤングケアラー問題は、かなり深刻ですよね。

松村 「誰も頼る人がいない」というのは問題だなと。「若い人たちが自分の将来の進路を全部絶ってまでやらなきゃいけないのか」という疑問や、「もっとパブリックなところで手を差し伸べてくれるところがないのか」という思いは持ちましたし、このような問題を「ヤングケアラー」という言葉だけでは片付けられないのではないか、という意識を持つようになりました。

 相談窓口などはあると思うんです。でも、実際にそれがすぐに支援に結びつくかというと、難しいんですよね。仮に、窓口で「こんな道がある、あんな道がある」と言われたり、「担当が別なのでそちらに行ってください」とたらい回しにされたりするようなことがあれば、僕の実体験から考えると、もう家の中は糞尿まみれになってしまうわけですし。

弱音を吐いて、誰かのサポートをしっかり受けて欲しい

――いろいろと伺ってきましたが、ヤングケアラーの当事者の方や、家族関係に悩んでいる方へお伝えしたいことはありますか。

松村 あまり大したことは言えないですけれども、とにかく1人で抱え込まず、いっぱい弱音を吐いて、いろんな人に弱みを見せてください、と伝えたいですね。そうすると必ず誰か見てくれていて、助けてくれる人がいると思うんですよ。

 僕の場合は叔母や事務所の社長、近所のおばちゃんおじちゃんがいて本当に恵まれていましたけれど、これは偶然ではなくて、僕がどこかで、無意識に弱音を吐いていたんだと思うんです。周りの人たちは、それを見るに見かねて助けてくれたんじゃないかと。

 

 だから皆さんも、頑なに「もう誰にも頼らないで生きていくのだ」とか、「これは恥ずかしいことだ」とか思わずに、弱音を吐いて、誰かのサポートをしっかり受けて欲しい。その代わり、自分も誰かを助けてあげられる時には、率先してサポートできるようになってもらえれば、なんて思います。とにかく困った時は、誰かに必ず相談するということですね。

 ただ、なかなか相談できるところがなかったりもするんですけれど、それでも、口すっぱく「誰か助けて」と言っていれば、必ず助けてくれる人が出てくるように思います。

撮影=佐藤亘/文藝春秋

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