彼はまた、必ず藤井の前に立つだろう

 翌朝、藤井のインタビュー中継も見てみる。「印象に残った手は」という質問に、彼は長考した後、「第5局の自陣飛車」を挙げた。

 そうだ。そうだった。第5局、藤井は苦しい表情を浮かべていた。だが終盤、あの自陣飛車が崖っぷちの彼を救った。あの黄金のような手を掴み取ったからこその、1勝3敗からの逆転防衛だった。

 永瀬の戦いぶりは見事だった。必勝戦法とも言われる「藤井の角換わり」を4度も受け、4度とも異なる作戦を見せた。第4局ではほぼノーミスで完勝した。先手番で驚異の勝率を誇る藤井が、先手番なのに一度も形勢を良くすることなく敗れる姿を見たのはいつ以来だったろうか? 盤上を常に支配していたのは永瀬だった。

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 彼はまた、必ず藤井の前に立つだろう。

永瀬拓矢九段(写真提供:日本将棋連盟)

 この3日後、鳥取県で行われた第51期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第5局で、藤井は増田康宏八段に勝利し、棋王を防衛した。棋王戦1勝2敗、王将戦1勝3敗という「Wカド番」の窮地から、5連勝という怒涛の巻き返しで逆転防衛を果たしたのだ。この劇的な結末は、どんなシナリオライターでも描くことはできないだろう。

藤井聡太はどこまで強くなるのか

 この5局には、ある共通点がある。すべて永瀬と増田が先に仕掛けて、藤井がそれを受け止め、あるいは反撃に転じるという展開だった。相手の攻めを正面から受け切って勝つ、まさに「横綱相撲」である。改めて棋譜を見返し、2人の大棋士の面影を重ねた。

 王将戦第1局、独自の6二金型から2二玉と入城した布陣。第5局、相掛かりから「4三銀・5三銀・3二金・5二金」の布陣。これらは木村義雄十四世名人が得意とした形である。特に後者の雁木は「木村不敗の陣立」と謳われた。

 さらに、窮地の藤井を救った「自陣飛車の受け」。これは大山康晴十五世名人の十八番である。偉大なレジェンドの布陣や技を現代に蘇らせる藤井聡太は、一体どこまで強くなるのだろうか。

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