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【イベントレポート】支援 自律 対話の人材育成 急務!若手社員の「キャリアショック」予防サミット

■企画趣旨

「キャリアショック」とは、本カンファレンスで基調講演をいただく慶應義塾大学教授 高橋俊介氏(※所属は出版当時)が提唱した、「自分が描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境変化や状況変化により、短期間に崩壊してしまうこと」を意味します。グローバル化、デジタル化、プロダクトライフサイクルの短命化が急速に進展するビジネス環境下においては、必要とされるスキルも多岐にわたるため、キャリアショックへの対策がおろそかになると、企業経営においても大きなマイナスのインパクトをもたらすこととなります。

組織や個人が持つリソースを最大限に活用し、変化に適応していく「持続可能な」企業・組織・人材を創り上げていくことは経営課題の最重要課題の1つといえるでしょう。そのためには、「キャリア自律」を意識した、マネジメントと従業員の継続的な対話と支援が不可欠です。

殊、若手社員に意識を向けると「やりたい仕事が出来ているのか」「自分の仕事は組織や社会に貢献できているのか」「自らのスキルの活かし方が分からない」「思うような成果が出せない」「成長機会が少ない」など現実とのキャリアギャップに不安を抱えている若手社員も少なくありません。

こうした若手社員の悩みに対し、マネジメントサイドは、フィードバックとコーチング、目標設定に向けた対話、キャリア自律の支援、成長機会の創出などキャリアショックの予防策を先んじて行う必要があります。

本カンファレンスでは、「若手社員の『キャリアショック』予防」をテーマに、「支援」「自律」「対話」を通じた人材育成の重要性について専門家の講演を通じ検証した。

■基調講演

キャリアショックが前提の時代のキャリア自律とは

『キャリアショック』著者
元慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
高橋 俊介氏

1954年東京都生まれ。東京大学工学部航空工学科を卒業後、日本国有鉄道に入社。プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼー・アンド・カンパニ-東京事務所に入社。88年に世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国ワイアットカンパニーの日本法人ワイアット(株)(現ウイリス・タワーズワトソン)に入社、92年同社代表取締役社長に就任。社長退任後2000年より慶應義塾大学大学院教授、藤沢キャンパスのキャリア・リソース・ラボラトリー設立に参画、22年4月より24年3月まで同大学 SFC研究所上席所員。キャリア形成、人材マネジメント、リーダーシップ、働き方改革などに確かな知見を有し、本質を見抜く目に定評がある。

キャリアショック」とは、自分が描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境変化や状況変化により短時間のうちに崩壊してしまうこと。2000年12月に私が東洋経済新報社から上梓した書籍のタイトルでもある。1990年代後半からビジネス界でキャリアショックが目立つようになってきた。

21世紀に入り、日米の様々な調査・研究により、キャリア形成のメカニズムに対する認識が大きく変化してきた。想定外の変化と専門性の深化・細分化の同時進行で、キャリア形成の管理可能性と予測可能性が低下している。21世紀は、仕事プロセスでの主体的な内的動機マッチングと仕事価値観による意味づけがより重要になっている。

想定外変化と専門性深化の時代に、自分らしいキャリアに導く習慣は以下の三つ。
(1) 自分らしく仕事を定義し、設計し、学び、ジョブストレッチし、結果的に違う景色が見えてくることで仕事とキャリアがスパイラルアップする。
(2) 布石行動・投資行動の習慣が、将来のチャンスを呼び込む。
(3) 主体的なテーマ選択と学びの習慣が、自分らしいキャリアに導く

◎自分らしさの基本である内的動機と、キャリア形成の関係

先述した「内的動機」とは、自分の内なる自然なドライブ、心の利き手ともいわれる。大人になったら内的動機は大きく変化することは少なく、ゲノム(遺伝子)や幼少期の影響が大きいと思われる。それ自体に良い悪いはなく使い方や成熟度の問題で、例えば成功したリーダーによく見られる動機には達成動機に加えパワー動機、親和動機などがあるといわれる。

キャリア形成においては、例えば営業が向いているかということより、営業という仕事をどんな動機を使ってできるかによって職種適性は変わる。達成動機の強い人は高い目標、闘争心の強い人はライバル、感謝欲の強い人は顧客への奉仕など、動機にドライブされて能力を発揮している時はストレスを感じにくくはまりやすい。それが勝負能力となる。

勝負能力開発は、新しいやりかた、新しい課題、新しい仕事に常にチャレンジして行う。また、動機が無いことも必要で、意志と努力により習得は可能だ。ただしこればかり習得努力して使うと燃え尽きる。

◎日本の学びの何が問題なのか/主体的学びの3層

日本の中等教育や受験、職場の学び、資格制度などは長らく「正解主義」であり、「持論形成力」を軽視してきた。その結果、第一線の人材が正解のない仕事に対応できていない。さらに「タテ型」の指導伝承に偏りすぎ、改善はできてもイノベーションが起きにくい。中根千枝氏の著書『タテ社会の人間関係』にもあるように、ヨコ社会の形成が弱い日本では(特に社外での関係作り)、学びもタテに偏り、ヨコ社会の概念である“プロフェッショナル”という概念も根付かなかった。学びの面白さや意味を軽視しないことが大切。例えば英語を学ぶ、から“英語で”学ぶへの変革が必要だ。

勉強は言われてやるものではなく、自分のために自分からやるもの。以下の三つを意識したい。
仕事の主体的拡大と連動した、仕事に直結する学び……主体的ジョブデザイン行動と主体的学びのスパイラルの結果、新しい景色が見えてくる。
継続的に長期でコミットする専門性コンピタンシーを深めていく学び……仕事は変化するが、今の仕事に直接関係なくても長期にコミットする専門性が、変化の時代だからこそ大事。
普遍的で基盤的なリベラルアーツ的学び……すべての物事を、固定的是非論やバズワードに振り回されずに本質的に思考する力を身につけ、引き出しを増やす。

◎自論系の学びのポイント/企業のキャリア自律推進の基軸

正解のない自論アウトプット系の学びの進め方は、以下だ。
問題意識を持ってインプットに臨むこと、日頃から自問自答の習慣を
ファクトに対して謙虚であること
インプットをベースに自論を形成する
自論をアウトプットしヨコで議論し、自身のヌケや選択肢の広がりなどの気づきを得る
・学びの1層目は社内同職種同士でも効果的、2層目は越境学習含め同じテーマを持つ人たちで、3層目は社内外立場関係なくヨコで学び合う

(1) 会社としてのキャリア自律支援の考え方の伝達
(2) 個人のマインドセットへの働きかけと個の支援
(3) 個人のキャリア形成のための多様な機会提供

企業は(3)の前提として(1)(2)もしっかり行い、キャリア自律推進支援を行ってほしい。

■課題解決講演

キャリア自律を促す『高解像度組織』のススメ

株式会社SmartHR
プロダクトマーケティングマネージャー
里井 惇志氏

京都大学卒業後、大手メーカーに入社し、調達業務に従事。その後、ITベンチャー企業に入社。プロダクトマーケティングマネージャーとして自社製品の企画・開発・利用促進施策の推進等を経験。2022年にSmartHRへ入社し、クラウド人事労務ソフト「SmartHR」の「配置シミュレーション」「組織図・名簿」の企画・開発を担当。24年2月リリースの「キャリア台帳」は初期構想から一貫して携わる。

◎高解像度組織とは何か

若手社員・マネージャー・人事が、情報がオープンで共有できている組織。それが高解像度組織である。現在の若手社員は、終身雇用は当たり前と思っておらず成長環境を重視し、成長機会は転職を考える理由としても上位になる。ただし、退職者は会社の文化や仕事を部分的にしか知らないまま退職している可能性もある。

そんな若手社員にとって身近な存在がマネージャーである。しかし、経営者と従業員をつなぐ結節点になるマネージャーの9割以上の部長がプレーイングマネジャーであり、業務過多やそれに伴い成長につながる部下の育成時間の確保に悩んでいるという調査結果もある。(出典:産業能率大学総合研究所「上場企業の部長に関する実態調査」)

そこで、人事部門には以下のことが求められる。
・組織の現状を知る
・人事戦略を若手社員・マネージャーに伝える
・若手社員に知る・挑戦する機会を作る
・マネージャーを支援する

◎高解像度組織を実現する方法とは

冒頭に述べた解像度の高い組織を実現するにあたっては、(1)現状を知る(2)あるべき姿を定義する (3)現状とあるべき姿のギャップを埋める施策の実施、の三つが柱になる。当社の例を紹介しつつこの三つを詳述していきたい。

当社は「well-working 労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」をミッションに「SmartHR」という人事労務クラウドソフトを提供している。(1)現状を知る、を実現するため=必要な情報を集めそれらの情報を確認するために、SmartHRは従業員サーベイ/スキル管理/分析レポート/キャリア台帳、という機能を持つ。

従業員サーベイは、ハラスメントや研修の感想、キャリア希望など組織や従業員の状態の把握・可視化・改善に活用できる。従業員のスキルを効率的に管理&可視化すること、そして収集した情報を蓄積した人事データをすぐに見える化し、データ同期と簡単な設定だけで組織単位での人事レポートの作成が可能だ。タレントマネジメントに必要な、従業員一人ひとり=個人単位での情報をまとめて確認することもできる。

(2)あるべき姿を定義する、の実現のためには、まず経営戦略に基づき人材戦略を定義することが必要だ。当社の人的資本経営における価値創造モデルでは、ミッションにもある“自社”&“社会”のwell-workingの推進(社会的価値)と、スケールアップ企業として前人未踏の事業成長を目指す(経済的価値)の二つの価値創造を掲げている。

その状態を作るために当社は、以下4点を軸に組織および人材の育成・配置を実施している。育てて成果を出す/主体性を持つ/“本当に”良い関係性を築く/チャレンジする人にチャンスを、だ。

最後に、(3)現状とあるべき姿のギャップを埋める施策の実施。これにあたっては、配置転換や研修が考えられるが、SmartHRは配置シミュレーションと学習管理の機能を持っている。人事情報を一目で確認でき、人員充足やジョブローテーションの配置を効率化できる。また、従業員一人ひとりの情報も確認でき、ポジションに適した従業員の抜擢なども実現する。

また、研修業務を電子化して業務効率化を実現する。受講履歴情報は自動連携されるため、タレントマネジメントへの活用も簡単だ。ちなみに当社では、マネジメント層への研修を厚めに想定している。先述のようにマネジメント層が組織の結節点と考えており、マネジメント層の人材育成力伸長を重視しているからだ。当社のコーポレートミッションである“well-working”が実現する日本社会の実現のための取り組みを、今後も続けていきたい。

■ゲスト講演(1)

キャリア自律、支援、対話のすゝめ
~ リーダーのように働き、挑戦することが『キャリアショック』予防になる ~

 

合同会社THS経営組織研究所
代表社員
小杉 俊哉氏

早稲田大学法学部卒業後、日本電気株式会社(NEC)入社。私費にて、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーインク、ユニデン(株)人事総務部長、アップルコンピュータ(株)(現アップル)人事総務本部長を経て独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授、慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授を歴任。ふくおかフィナンシャルグループ・福岡銀行、などの社外取締役を兼任。専門は、人事・組織、リーダーシップ、人材開発、キャリア開発。受講者10,000人を超えるキャリア自律研修や、管理者・幹部向けのリーダーシップ研修でも、自らの経験をベースとした語り口にはファンが多い。

マネジメントの方向性は「管理」から人材の成長を通じた「価値創造」へと変わり、人材に投じる資金は価値創造に向けた「投資」となる。そのためには「自律的なキャリア形成」の支援が必要——と「人材版伊藤レポート」に謳われた。「個の自律・活性化」「選び、選ばれる関係」も強調して伝えている。組織~個人は、対等にWin-Winの関係、大人同士の関係を指向する時代なのだ。

会社は、人材が魅力を感じる仕事やキャリア、職場を提供することが必要。一方、個人は組織ニーズに見合うエンプロイアビリティを高めるための自己投資をし続ける必要がある。先述の大人(扱い)とは、信頼関係を作る、真実を語る(情報共有)ということ。個人は自分で学習し、キャリアを考え、責任を取る——すなわち自律しなければならない。会社は社員に自律してもらうために必要な支援を行う、というのがキャリア自律の図式だ。

コロナ禍において社員・メンバーは「経営者、管理職が、どうすべきか答えを持っているわけではない」と気づいた。そして現在、顧客接点を持つ現場が答えを持つことを期待されている。社員は顧客志向/課題発見・仮説構築力(know what)/継続的学習を保持し行い、企業家のように自律的に働くことが求められている。日本企業は今後、多様な社員に自律的に働いてもらわないと新しいものが生まれず、将来は危ういだろう。

全社の約2~3%のイノベーター(自律した人=エース)と、続く15%弱のアーリーアダプターの間にはキャズム(深い溝)がある。アーリーアダプター層にイノベーターに追随してもらい自律型人材を増やすために、キャリア自律研修やカウンセリングが有効で、自律型人材が全体の五人に一人程度に増えてくる。さらに、経営者や上司の支援、評価制度整備などによって、次のアーリーマジョリティ層~レイトマジョリティーが付いてきて会社の体質が変わる。

◎自社の働き方改革、生産性向上に関する課題とは?

生産性とはOUTPUT(付加価値、生産量)÷INPUT(労働投入量)。欧米やアジア各国がOUTPUTをいかに極大化するかの競争をしているのに対し、日本はINPUTをいかに少なくするかの競争を進めた。これでは海外の企業に太刀打ちできない。今までと同じOUTPUTをより短い時間で行う⇒効率アップと、単位時間あたりのOUTPUTを極大化する⇒効果アップ、の二面があることを忘れてはならない。

人材が今期の仕事だけでなく、将来に向けた仕事にも取り組めるような仕組み「デュアルシステム」の採用が効果的だ。自ら手を挙げた人材に、既存の階層組織とは全社プロジェクトでも働く機会を与える。時間による振り分けではなくエネルギー量を120%に増やして20%を注ぎ込む、のである。例えばソニーの平井一夫元CEOは、企業再生のために社員の煮えたぎる情熱のマグマを解放する場(社長直轄プロジェクト)を作り、V字回復を果たした。ただし、こうしたことは全員に強いてはいけないし、時間管理してもいけない。

マネージャーとリーダーの違いは何か。前者は物事を正しく行うHOWが課題)であるのに対し、後者は正しいことを行うWHATが課題)。リーダーには、開発する/革新する/人に注目/信頼を築く/長期的展望/何故、何を/自分のオリジナル/現状に挑戦する/自分自身という個人、というキーワードがあてはまる。

「有能なトップマネジメントは、自分の時間の80%をリーダーとしての仕事に充てる、しかし組織の階層の一番下に位置する担当者でも20%の時間をリーダーとしての仕事に充てている。変化の激しい業界ではさらにその比率が高い
「変革を成功に導くのはリーダーシップであり、マネジメントではない」「マネジメントとリーダーシップを同義と考える人は、変革をマネジメントの手法で推進しようとし、コントロールしようとする。これでは……変革を乗り切ることはできない」(以上、ジョン・コッターの言葉)

いくら働き方改革に取り組んで業務効率を上げても、「今日の飯の種」のために100%の時間を使っていては「明日の飯の種」は生まれない。Googleの“20%ルール”や3Mの“15%カルチャー”は理にかなった取り組みである。

目標管理制度(MBO=Management by Objectives)は、弊害が多いが成果主義には「必要悪」のようなもので、すぐには止められないだろう。しかし、インプット(労働時間)を増やすことによってアウトプット(収益)を増やすという発想では現代の収益モデルに合わない。やらなければならないこと(短期的:MBOで管理)と、会社のミッション・ビジョン実現のために自らやりたいことをやること(中長期的:OKR=Objectives and Key ResultsをKPI=Key Performance Indexで加点)双方で評価する制度化を提案したい。

◎組織の活力を高め、イノベーションを起こすには?

Googleが大規模な社内調査を経て出した結論は「心理的安全性の確保」である。
・何かいいアイデアがひらめいたときに、すぐ発点し、すぐ実行できる
・それが失敗しても、嘲笑されたり罰せられたりせず、引き続きチームの一員として尊重される(と本人が確信できる)

静かなる離職(Quiet Quitting)の主な理由は、会社や上司との人間関係、信頼関係が構築されないことが原因。本音を引き出せる環境作りが必須だ。米国企業のタレントマネジメント、ミレニアル世代・Z世代への対応は、マネージャーが一人ひとりと向き合い、多様な強みを理解し、それを最大限引き出す方向になっている。キーワードは、エンゲージメント/フランクな対話重視、心理的安全の確保/年次評価の廃止(No Ratings)/リアルタイム・フィードバック/未来志向/個人起点/強み重視/コラボレーション。これらを確認・実現するために1on1ミーティングが頻繁に行われる。

コントロールをあきらめることだ。コントロールを手放すと新しい関係が生まれる。
・顧客や社員が持つパワーを尊重する
・絶えず情報を共有して信頼関係を作る
・好奇心を持ち、謙虚になる
・オープンであることに責任を持たせる
失敗を許す
これらが新しいルールだ。

近年の「キャリア自律」は本人には常識であり、企業側もかなり意識するようになった(←人的資本経営)。越境学習、越境キャリアも当たり前になり、企業の変革を成功に導くトップは、本業、本流、自社だけの経験だけでは足りず、アウェイ経験が必要となってきた。専門性は必要だが、一つでは足りないのだ。

自律型人材を支えるためには一人ひとりの人材と向き合う現場の支援型リーダーが必要だ。これからの企業はビジョン、価値観、ミッション、パーパスを共有し、必要であれば行動規範を徹底する。経営層が覚悟をもって率先垂範しなければ、自律型組織とはならない

人材の普遍的なスキル・能力を高めるような投資は、人材流出を招くという懸念があるかもしれない。しかし「与えられれば感謝される」とマルセル・モースは言った。普遍的な投資⇒信頼の回復⇒より高いレベルのコミットメント、という流れがある。人は真似をする動物だ。利他的な行為⇒互恵主義は、社内に模倣される。社外に出ても協力関係を得たり、将来戻ってくる人材になる場合もある。

■ゲスト講演(2)

「働きがいのある会社ランキング」を日本トップクラスにした
個人選択型HRMの実践

レバレジーズ株式会社
執行役員
藤本 直也氏

大阪大学工学部卒業。2014年新卒入社。マーケティング部、新規事業の責任者、レバテックの経営企画を担当した後、25歳でレバレジーズ史上初の執行役員に就任。就任後は人事責任者、新規事業検討室長、経営企画室長を経て、現在はマーケティング部長を務める。レバレジーズの約50の事業を、事業戦略/プロダクト開発/広告/データ分析/CRMによって支える。18年度より、中央大学で新規事業、マーケティングについての非常勤講師を務める。

当社はIT/医療・介護・ヘルスケア/若者領域の人材事業で業界トップシェア。近年ではM&A仲介やオンライン診療、HRtechなど新規事業も多数手掛けている。さまざまな業界や国で約50の事業を展開し、代理店やコンサルをほとんど使わないインハウス型組織であるため、キャリアの選択肢が多様にある状態。正社員数は約3000名、男女比は1:1。事業責任者の78%が20代だ。

◎レバレジーズでの個人選択型HRMの背景/目的

世界約100カ国で開催されている「働きがいのある会社ランキング※」で、2022年度は大企業部門3位、女性部門と若手部門で1位を獲得した。そんな当社での「個人選択型HRM」とは、従業員が自律的・自己選択的に、仕事・働き方・キャリアに関する選択を行う機会を増やす制度やマネジメントのこと。離職指標の改善とエンゲージメント指標の最大化を目指してそれを実行している。
※Great Place To Work® Institute Japan=GPTW Japan発表

職務適性、職場適性はもちろん大切だが、労働需要>供給の社会においては「現在の会社にいる理由」を作らなければならない。故に、「自己適性」を向上させることが離職の防止や社員のパフォーマンス向上につながっていくと考える。自己適性が高い状態の人は、仕事の壁をポジティブに捉えることができ、正の循環に入る。

よって、個人の積極的なwill(やりたいこと/目指す姿)を持っている社員を増やし、個人のwillと実際の仕事内容を一致させ続ける取り組みそのものが、内発的な動機づけにつながっていく。ハーズバーグの2要因理論によると、職務満足と職務不満足をもたらす因子は別だ。職務満足を生む要因を動機づけ要因、職務不満足を産む要因を衛生要因という。動機づけ要因は達成感承認仕事そのものなどであり、衛生要因は会社の方針労働条件人間関係などが該当する。

当社では、採用人材育成配置の最適化といった観点から見ても、動機づけ要因向上に向けた個人選択型HRMを行っていくことが最重要であると考えている(衛生要因と比較して)。動機づけ要因をさらに詳述すると、職務内容の個人選択/仕事上のキャリアの個人選択/上司の個人選択である。

まとめると、
・社員の内発的動機づけを高めることによって、離職を防ぐことができるのではないか
・社員ひとりひとりに自発的な「やりたい/興味のある/大切にしたいこと」が存在するし、実際の仕事と一致させることで、内発的動機づけを高めていけるのではないか
・衛生要因ではなく、動機づけ要因にフォーカスした人事施策が重要

こう考える故に個人選択型HRMを導入しているのだ。

◎レバレジーズでの個人選択型HRMの実践

個人選択型HRMは、採用から入社後まで一貫した施策として行っている。キャリアに前向きな社員を採用することが全てのスタートとなるため、採用/オンボーディングといった入社前施策が最重要といっても過言ではない。

自ら責任を持って人生を生きたい人、人生を前向きに生きたい人を採用したい。採用段階にて採用候補者のwillを醸成することで、入社後の内発的動機づけが行われやすくなる。候補者には個人のwillを明確にして入社してもらうことで、前向きに自分でキャリアを選択することを習慣化させている。採用時に入社してから3年以内のキャリアイメージをすり合わせ、ギャップを埋めることで考える土台を作っている。

1~3次面接の後、採用担当と候補者が並走期間(1~3カ月)にwillを考え、固めたのちに、具体的な職種まで確定させたうえで内定を出す。入社前後のキャリアギャップがなくなり「やりたいこと=やっていること」の一致性が上がることで内発的動機づけが効きやすくなる

先述のとおり職種やキャリアパスが多様な会社なので、入社後の個人選択を促すために社内の選択肢を知ってもらい興味をもってもらう施策を打っている。例えば社内公募求人サイトの運営、事業部交換留学制度、メンター制度の拡充などだ。また、個人の選択をスムーズにするために、個人のwillを応援する文化の醸成と個人の選択時の障壁を下げる施策も行っている。例えば仕事の話をしない1on1の徹底、公募フローの整備、職種変更時の基準明確化、組織サーベイの徹底などである。

組織サーベイは毎月配信し、結果を部門長レベルが個別に確認して対策を洗い出すことを徹底している。サーベイが多くなりデータの読み取りの難易度が上がり、対応すべき社員の優先順位付けが難しくなったため、社内ツール「NALYSYS」=離職防止AIを開発しデータ品質の標準化を行った。NALISYSは外部提供もしているのでお声がけいただきたい。

ミッションマネジメントの徹底が、会社のwillと個人のwillの一致度を高め、個人選択を最大化する近道、重要事項と考える。3カ月に1度、部門長が配下メンバーすべてのミッションの確認と評価を行っている。下記スライド参照。

人材の確保/定着/パフォーマンス最大化において、社員一人ひとりが積極的な個人のwillを保有し、自己実現していくことが重要だ。それは社員個人の問題解決だけではなく、企業の戦略策定実行能力の上昇にも寄与する。これを実現するのは大変だが、入社前から入社後までの一貫した人事戦略と実行・実践が必要と考えている。

2024年6月5日(水) 会場対面/オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局