――『二月の勝者』と言えば、インパクトあるセリフやコマが特徴です。今回、『二月の勝者』で印象深かった場面をおおたさんに選んでもらいました。
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公立高校がいつのまにか中高一貫校化
おおた まずは、これ。「桜花ゼミナール」で塾講師をやっている主人公・佐倉麻衣が、母校の公立高校がいつのまにか中高一貫校になっていることに気づく場面です。
取材をしていると、「高校からそこそこのところに入ってくれれば」とお話しされる親御さんは多いのですが、特に東京ではいま、高校受験の選択肢って少なくなっていますよね。
高瀬 そうなんですよ。都内の公立高校で言えば、2005年以降、都立が10校、区立を入れると11校が中高一貫校になったんですが、その分、高校からの入学枠が減ります。高校から300人ぐらいのキャパで入れる学校が突然なくなって中高一貫校になるのは、その地域にとっては大事件だと思います。
おおた そうそう。しかも、一貫校化した公立高校はそこそこの進学校ばかりなんですよね。高校受験で都立狙いの場合、日比谷や都立西、国立が駄目だと、その下の高校の進学実績はストーンと落ちてしまう。
高瀬 そのせいで、都立の上位校から中堅校までの受験が椅子の取り合いで大変で……。しかも、公立だけじゃなくて、私立も高校での募集をやめてしまうところが増えていて、本当に選択肢がないんです。
おおた 第一子の高校受験でそうした現実にはじめて直面して、「こんなことなら中学受験させておけばよかった」と、弟や妹に中学受験させるご家庭が非常に多いですね。
「好きなことがある子ほど受験をやめなくていい」
おおた 次に印象に残ったのは、「他に好きなことがある子ほど受験をやめなくていい」と異色の塾講師・黒木蔵人(くろきくろうど)が言い放つ場面。中学受験に関しては「遊び盛りの小学生に勉強させるなんて可哀想」という意見がまだまだ根強いんですが、僕からすると「中学生はもっと遊び盛りじゃないの?」と思います。たくさん冒険して、失敗して、体験的に世の中を知る時期でしょ、と。
小学校生活を勉強に充てるデメリットは論じられるけど、中学校生活を犠牲にするデメリットはあまり論じられていない。それこそ、部活やお稽古ごとを長期的に続けていきたい子どもだったら、小学生のうちに受験をして、大学付属校で大学まで集中して取り組む、という選択もすごくありだし。
高瀬 高校受験の大きなデメリットとしては、“反抗するのが仕事”って時期に、子どもが勉強で抑えつけられることじゃないかと思っています。
内申点もそうでしょう。14歳、15歳の子どもが先生の顔色を窺わなければならないのってつらいこと。取材したケースでは、先生に理不尽なことで怒られたお嬢さんが、カッとなって先生に暴言を吐いてしまった。もともと活発なタイプで、部活のバレーなどをがんばっていたそうなんですけど、内申点がものをいう都立の受験は残念な結果だったようです。