文春オンライン

2019/09/17

最後の瞬間まで、厳しさあふれるコーチでいてほしい

 先日、宮本ヘッドの今季限りでの退任が正式に発表された。現時点では、球団史上初の「生え抜きの厳しい監督」誕生は、先送りされることとなった。一報を聞いたときには、悔しかった。自分のことではないのに、本当に悔しかった。宮本さんの無念さが想像できたからだ。シーズン中に何度か彼と話をする機会があった。その際に、理想と現実、宮本ヘッドがさまざまな困難と葛藤を抱えていることを知った。

 昨年1月、古巣への復帰が決まり、沖縄・浦添キャンプを直前に控えていた頃、彼にロングインタビューを行ったことがある。その際に彼は、「迷いはあったけど、コーチの依頼があったときは嬉しかった」と率直な思いを述べていたことを思い出す。さらに、僕の胸を打ったのは、この言葉だ。

「依頼を受けた理由としては、もうヤクルトへの愛情しかないんで。ヤクルトから、“宮本が必要だから”って言われたのなら、素直に受けた方がいいと思ったんで……」

 ヘッドコーチの依頼を受けたのは、古巣・ヤクルトへの愛情しかない――。そんな思いで再びユニフォームを着たのに、わずか2シーズンでチームを去っていくなんて……。彼がヤクルトでやりたかったことは、折に触れて聞いてきた。だからこそ、彼がヤクルトに遺したもの、そしてやり残したことは改めてじっくりと聞いてみたい。「遺し」と「残し」か。漢字ひとつで、まったく逆の意味を持つことになる。

 たとえば、現役時代の自分と同じショートを守る西浦直亨に対し、「彼はまだまだ。とことん追い込んでやりますよ」と言い放ったことを思い出す。あるいは、昨年4月7日のTOKYOシリーズ第2戦、同じくショートを守る廣岡大志が犯した守備面での凡プレーを思い出す。この日、廣岡は5打数5安打を放ってチームの勝利に貢献したにもかかわらず、ショートフライでタッチアップを許したことで、試合中のダッグアウト裏で宮本ヘッドに怒鳴り散らされたという。西浦に対しては「とことん追い込んでやる」と言い、廣岡に対しては試合中に徹底的に叱りつける。この厳しさこそ、宮本ヘッドがヤクルトにもたらしたもの、遺したものなのだ。

 気のせいなのか、退任発表以来、ベンチ内での宮本ヘッドの表情が柔和になったように思う。……いやいや、それは僕の誤解だろう。現役引退記者会見で「一度も野球を楽しんだことがない」と発言した彼は、コーチとなった今でも野球を楽しんでいるはずがない。それは「宮本イズム」に反する。ぜひ、最後の最後まで厳しく選手たちに接し、勝利のために妥協を許さぬ姿勢を貫いてほしい。背番号《86》の雄姿を見られるのも、残りわずかとなった。ひとまず、彼はユニフォームを脱ぐ。「野球を楽しむ」のは、それからでいい。そのときに初めて、心からの「お疲れさまでした」という言葉を、宮本ヘッドに伝えたい。あぁ、それにしても……。

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