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ケーススタディ3:差別主義者と非難される白人の恐怖

 白人による人種コメディにも過激なものがある。大人向けのTVアニメ『サウスパーク』は常に社会問題を取り上げ、すでに20年以上続く長寿番組だ。番組クリエイターは2人の白人男性であり、主人公はほぼ白人ばかりの街に住む4人の小学生男子。ユダヤ系1人を含むが、全員が白人だ。

 あるエピソードでは主人公の1人、スタンの父親がテレビのクイズ番組で勘違いから「Nワード」を口走ってしまう。人種差別の意図はなかったといくら説明しても父親への風当たりは強くなるばかりで、スタンも学校で唯一の黒人生徒と対立してしまう。そこに実在の白人コメディアンで、実際に舞台でNワードを使ったために仕事を干されたマイケル・リチャーズが絡む。

 最後はスタンが「Nワードを使われた黒人の気持ちは自分には分からない」と悟り、それによって黒人生徒と和解する。

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「サウスパーク」製作者のトレイ・パーカー(左)とマット・ストーン(右)©getty

 このエピソードのポイントは、スタンの父親がクイズの答えをNワードだと思った理由だ。ヒントが「イラつく人々」だったからであり、つまり父親が無自覚の人種偏見を抱えていたことを示している。

 『サウスパーク』はこのように非常に鋭い視点がみられる一方、「社会問題に目覚めた白人男性による、社会問題に目覚めた白人男性のための番組」という評がある。上記のエピソードも人種差別主義者と謗られる白人側の恐怖を誇張して描いている。かつ、わずか22分の番組中、Nワードが40回以上も使われ、そのほとんどが白人キャラクターから発せられる。

 いずれにせよ、登場人物がほぼ白人ばかりであることから『サウスパーク』を観る黒人視聴者は少ない。

金属バットは完全に一線を超えていた

『サウスパーク』は人種差別に鈍感な白人への風刺ではあるものの、Nワードを意識的に乱発しており、相当に際どい。しかしながら「Nワードがいかに黒人を傷付けるかを描いている」とも評され、2007年のオンエア当時は賛否両論が出た。そこから金属バット擁護に『サウスパーク』を持ち出す声があったが、二者は比較対象にならない。

 金属バットの「黒人が触ったもん座れるか!」は完全に一線を踏み越えているからである。このセリフは「黒人に触れたくない」という生理的嫌悪を表すものであり、人間を人間として見做さない「dehumanization(デヒューマナイゼーション)」だ。人種差別のリアリティ描写を追求する映画やドラマは別だが、コメディにおいては、まず使われないタブー表現だ。

 転じて日本の人種コメディ事情を考えてみる。アメリカと異なり、黒人奴隷制度があったわけでなく、日本での黒人の歴史は短く、人口も極端に少ない。ゆえにコメディアンも観客も「自分の周囲にも黒人がいる」「日本で生まれ育った日本人にも黒人がいる」「彼らもこのネタを耳にしている」とは意識せず、アメリカやアフリカ経由のイメージ上の黒人、生身としては存在しない黒人を想定してネタにし、笑う。「身近にいないから仕方がない」と擁護する向きもある。しかし、これこそがまさに「dehumanization(デヒューマナイゼーション)」であることを忘れてはならない。

 

追記:10月1日、金属バットの以下の差別発言が含まれた2012年のライヴ公演ヴィデオの存在が新たに報じられた。
「猿とエッチしたらエイズになるわ」
「黒人とかな」
(「
Buzzfeed Japan」より)