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「アメリカにも同様のコメディがある」という指摘もあるが……

 一部のファンからは人種差別にアンチを唱えるための風刺であり、すべての人種をネタにしている、特にアジア系を「イエローモンキー」と呼んで自虐している、アメリカにも同様の手法を取るコメディ番組があるといった声が出ている。

 アメリカは風刺コメディの根強い文化を持つ。コメディアンの多くが政治も含めて時事問題を取り上げ、人種問題も欠かせないネタとなっている。近年ようやくヒスパニックやアジア系のコメディアンも台頭し始めたが、圧倒的多数を占めるのは白人と黒人であり、特に黒人コメディアンにとって人種問題は必須のネタだ。

 北米に初めて黒人が連行されて今年はちょうど400年目にあたる。以後、奴隷制は約250年にわたって続き、奴隷制終焉からまだ150年少々しか経過していない。奴隷解放後もあらゆる黒人差別が続き、今も黒人であるというだけで殺害の対象にすらなることがある。

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 こうした背景があるからこそ黒人にとって人種問題は非常に重要であり、黒人への警察暴力に抗議するための「ブラック・ライヴズ・マター」運動も生まれた。同時に人種差別をコメディに昇華し、自ら笑うことでカタルシスを得る(ネガティヴな表現によって逆に精神を開放させる)作業も必要となる。

©iStock.com

 つまり、現実の黒人差別が今も厳しいからこそ、黒人コメディアンの表現も過激になり、白人への強烈な揶揄(笑い者にする)も含まれる。その一方、白人コメディアンは人種ネタに慎重にならざるを得ない。黒人を「黒人である」というだけの理由で笑い者にすることは出来ない。黒人を個の人間と認めず、黒人であるというだけで貶める言動こそが、まさに人種差別だからだ。

 アメリカのこうした人種コメディ事情を知るために、以下に3つのコメディ――「黒人コメディアンによる過激なネタ」、「白人コメディアンによる自虐ネタ」、「白人クリエイターによる際どいネタ」――を挙げる。

ケーススタディ1:白人至上主義者になった黒人

 黒人コメディアンによる人種コメディには"名作"とされるものがいくつもある。デイヴ・シャペルの「Frontline - Clayton Bigsby」もそのひとつだ。シャペル演じる老人が、なんとKKKのメンバーという突拍子もない設定だ。

 KKKはかつては黒人の殺害をも厭わなかった白人至上主義団体だ。生まれつき盲目だった老人は幼い時期に盲学校に入学するが、唯一の黒人であることを不憫に思った白人の校長が「あなたは白人」と信じ込ませる。自分は白人であると疑わず成長した老人は黒人を忌み嫌い、やがてKKKに入団するのである。白人の偽善、差別主義者の愚かさ、黒人のセルフ・ヘイト(自己への憎悪)をこれでもかと過激に詰め込んだ傑作だ。

Chappelle's Show - "Frontline" - Clayton Bigsby Pt. 1 - Uncensored
Chappelle's Show - "Frontline" - Clayton Bigsby Pt. 2 - Uncensored

ケーススタディ2:白人の自虐ジョーク

 あえて人種ネタに挑む白人コメディアンもいるが、ジョークの内容には慎重だ。

 白人コメディアンのコーナン・オブライエンは自身の番組内のコーナーで、ラッパー/俳優のアイス・キューブ(黒人)、コメディアンのケヴィン・ハート(黒人)と共にタクシーに乗り込み、トークを繰り広げた。キューブとハートは途中で車を停めさせ、オブライエンにスナック菓子を買いに行かせる。オブライエンが車外に出るや、ハートがヒスパニックの運転手に質問する。「白人のこと、好きか?」。

Ice Cube, Kevin Hart, & Conan Share A Lyft Car


 この一言で大きな笑いが取れるのは、番組ホストであるオブライエンの巧みさゆえだ。頼りない白人が黒人に使い走りに出され、挙句にこっそり「白人は嫌いだ」と言われてしまう。つまり白人の自虐ジョークなのである。