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 若い女性の乳がん検診は害の方が大きい

 なぜ、20代、30代には、乳がん検診が推奨されていないのでしょうか。それは、乳がん罹患率が高くない若い女性が乳がん検診を受けると、メリットよりもデメリット(害)のほうが大きいと判断されているからです。

 乳がん検診に、どんなデメリット(害)があるのでしょうか。まず挙げられるのが、「放射線被ばく」に伴う発がんリスクです。このリスクは若い女性ほど高いとされていますから、しこりが心配で乳がんの検査を受けるとしても、20代、30代は原則的に、放射線被ばくをするマンモグラフィは受けるべきではありません。

 次にあげられるのが「偽陽性」の害です。偽陽性とは、結果として乳がんではなかったのに、「要精密検査」とされてしまうことを意味します。乳がんの精密検査では、乳房に針を刺して組織の一部を採取する「針生検」が行われていますが、針で痛い思いをするだけではありません。深刻なのは「がんかもしれない」と心配になることで被る精神的な苦痛です。結果が出るまで不眠になってしまう人や、検査後もずっと不安に苛まれる人がいるのです。

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米国では発見された「乳がん」の3分の1が過剰診断

 そして、もっとも深刻なのが、「過剰診断」の害です。これは「命を奪わない病変」をがんと診断してしまうことを指します。がんと言えばすべてが命取りになると思われていますが、そうではありません。自然に消えてしまうものや、ずっと大きくならないもの、大きくなっても命取りにならないものなど、さまざまな病変があります。

 乳がんでは、マンモグラフィ検診が普及した結果、「非浸潤性乳管がん(DCIS)」という超早期の病変がたくさん見つかるようになりました。この中には、放置すると周囲に広がって命を脅かすものもありますが、そのままじっとして広がらないものもあるそうです。しかし、現代の医学では、どの人がどちらなのか見分けがつきません。

 そのため、「がん」を見つけてしまった以上は、過剰診断だったとしても放置できないので、ほとんど全員が、手術、放射線、抗がん剤、ホルモン剤などの治療を受けることになります。つまり、無用な治療を受ける可能性を排除することはできないのです。

 実はここ数年、この過剰診断が予想以上に多いことが、欧米の研究で指摘され始めています。2012年に報告された論文では驚くべきことに、米国の検診でこれまでに見つかった乳がんのうち約3分の1が過剰診断で、過去30年間に約130万人もの女性が、無用な治療を受けたと推計されています(N Engl J Med. 2012 Nov 22;367(21):1998-2005.)