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世界的に有効性が疑問視され始めている

藤山直美さんは今年の2月に初期の乳がんで舞台を降板 ©文藝春秋

 日本で、どれだけの過剰診断があるかは不明です。しかし、ある乳がんの専門医は私の取材に、「日本でも10~20%は過剰診断があるかもしれない」と明かしてくれました。現在、日本で乳がんと診断される人は1年に約9万人いますので、毎年9000人~1万8000人もの女性が、無用な治療を受けている可能性があるのです。

 過剰診断の害を被る可能性があるのは若い人だけではありません。高齢者は検診で早期がんが見つかったとしても、がんが進行して命取りになる前に、他の病気で亡くなる可能性があります。それに高齢者では、治療によって被るダメージが若い人より重くなりがちです。こうした理由から、乳がん検診では年齢に上限が設けられているのです。

 それだけではありません。ここ数年、欧米からは乳がん検診に死亡率を下げる効果はないという研究報告も相次いでいます。これを受けて日本乳癌学会も、2015年に改定した「乳癌診療ガイドライン」で、50歳以上のマンモグラフィ検診の推奨グレードをAからBに格下げしました。現在Bに格付されている40代は、今後推奨すらされなくなるかもしれません。

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 拙著『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ 』(宝島社新書)にも詳しく書きましたが、偽陽性や過剰診断の急増は乳がん検診だけでなく、前立腺がん検診などでも指摘されています。さらには、どのがん検診にも「命を救う」(寿命をのばす)という確たる科学的証拠はなく、世界的に有効性が疑問視され始めています(BMJ. 2016 Jan 6;352:h6080.)。

乳がん専門医も「そろそろ“がん検診神話”は捨ててほしい」

 こうした事実を知っている芸能人やメディアの方々は、恐らくほとんどいないのではないでしょうか。乳がん検診を推奨するのならば、少なくとも国や学会のガイドラインは踏まえておく必要があると私は思います。

 いまや、やみくもに乳がん検診を推奨する時代ではないのです。昨年12月11日付の「日経ヘルス」で、聖路加国際病院乳腺外科部長の山内英子医師も、次のようにコメントしています。
「そろそろ、必ず検診に行かねばならないという、“がん検診神話”は捨ててほしい。乳がん検診の場合、発症リスクの低い人が検診を受けることで、過剰診断や偽陽性、被曝のリスク、精神的な負担などの不利益が、検診による利益を上回ることも。発症リスクを考慮して、必要な人が、その人に合った方法で検診を受けてほしい」

 山内医師は、日本乳癌学会で理事を務める著名な専門医です。このとおり、がん検診に限界があることは、乳がんの専門医も認め始めています。がん検診を受けてはいけない人がいること、がん検診には深刻なデメリットがあること、そして「寿命をのばす」という確たる科学的証拠はないことを、ぜひ多くの人に知っていただきたいと思います。