――どういった対処法があるのでしょう。
斉藤 人によってさまざまです。たとえば、小学校の下校時刻になったら通学路には近づかない、というのも対処法の一種ですし、衝動を感じたら保冷剤を握る、フリスクを噛むという人もいます。自分の居場所が周囲に分かるようカバンに鈴をつける、子どもが歩いてきたら、パッと目をそらす、という人もいますね。最近では、スマホのアプリをうまく活用している人もいます。
対処法も慣れてくると耐性ができてしまって、効果がなくなってくるので、効果のないものを見直し、あるものに変える作業が必要です。ですので、この再犯防止計画を策定し、定期的に更新していきます。
――その他には、どのような治療が行われるのですか。
斉藤 認知行動療法の他、薬物療法を併用する場合もあります。薬物療法を受けると性欲が減退するので、加害のスイッチも入りづらくなりますが、これはあくまで「転ばぬ先の杖」。メインは認知行動療法です。
「生きている感じがしない」と薬物療法からドロップアウト
――薬物療法がメインでないのは、少し意外です。
斉藤 そう感じられるかもしれませんね。でも、薬だけ飲んで児童への性加害をやめられるかというと、なかなか難しい。
依存症の治療などと同様、ペドフィリアの治療も規則正しい生活を送ることでメンタル面が安定し、治療に集中できますし、そもそも薬を飲むことは強制できません。「治療を続けていかなければ」と本人が感じていないと、治療は継続できないのです。
以前、当クリニックで自ら希望して薬物療法を受けていた人が、「子どもへの性欲がなくなると、生きている感じがしない」とあえて再犯し、治療からドロップアウトしてしまったことがあります。
――子どもへの性欲がなくなったからといって、「子どもへの性加害はあってはならない」という認識になるわけではない。
斉藤 その通りです。小児性犯罪者が自らの認知のゆがみに対する反応を変える、そして修正を繰り返す、もっと言えば、被害者の立場に立って考えられるようになるには、長い時間がかかります。
一般的には、性犯罪を犯したら「まず謝罪しろ」「まず責任を取れ」という声があがりますよね。これはもちろん正当な要求なんですけれども、本人が子どもへの性加害を正当化している段階では、心から謝罪することは不可能です。ですので、当クリニックでは、被害者に向き合うのは最後の段階になります。