「お父さんにぼう力を受けています」
心愛さんが虐待を受けていたことを「公的機関に所属する大人」が知ったのは、この時が初めてではない。死亡する約1年2カ月前の2017年11月6日、小学3年生だった心愛さんが、当時通っていた野田市立山崎小学校のいじめアンケートで訴えた。
「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたりたたかれたりされています。先生、どうにかできませんか」
これによって小学校は虐待を知り、アンケートの翌日には県柏児童相談所で一時保護した。上記の虐待のほか、勇一郎被告は、「なかなか息が止まらないな」と言いながら心愛さんの口と鼻をふさいだり、布や布団で顔を押し付けたりしていたことが分かった。家族で同年夏まで住んでいた沖縄県では、次女を妊娠中だった母親も暴力を受けていた。
さらに心愛さんは、夜中に起こされ、ズボンを脱がされ、下着も一緒に脱げてしまったことがあったと児相の児童心理司に告白。心愛さんが「やめて」と言うと、「そんなこと言うとバレるだろう」と返されたという。精神科医は、心愛さんはPTSDの状態と診断した。一方、勇一郎被告は一時保護に納得がいかず、「虐待は心あたりがない」、「家族を壊す気か」と児相や野田市にクレームを入れ続けた。
勇一郎被告に「恐怖を感じた」市教委の指導課長
しかし、一時保護は約2カ月で終わってしまう。年の瀬が近づいた12月27日、心愛さんは自宅ではなく父方の祖父母宅で暮らし、勇一郎被告とは2人きりでは会わないことなどを条件に一時保護は解除された。だが父方の祖父母宅と自宅はさほど離れておらず、心愛さんはたびたび無断で自宅に帰っていた。
年が明けた2018年1月12日、勇一郎被告は妻を連れて小学校へ向かった。心愛さんが虐待を訴えたアンケートの存在を何らかの方法で知り、「家族を引き離された者の気持ちが分からないのか」、「保護が解除されたのは暴力がないという証だろう」などと、現物を見せるよう学校を恫喝。心愛さんの同意がないことを理由にアンケート開示を拒否した学校に対し、自身がひな型を準備した「念書」を書かせた。15日には心愛さんに書かせた同意書を持参し、夫婦で野田市教育委員会を訪れた。あろうことか、市教委は勇一郎被告にアンケートを手渡してしまった。対応した市教委の指導課長は「威圧的な態度に恐怖を感じた」と振り返っている。