「香港独立派」も空回り中
ところで、中国政府に批判的な立場をとる香港人は、中国の主権下の高度な自治(一国二制度)の枠組み内で政治の民主化を求める従来型のリベラル派「民主派」と、中国の主権を否定して香港の独立を求める「本土派」(香港独立派)の2つに分かれる。例えば、2014年の雨傘革命の中心になった学生運動家のジョシュア・ウォンや周庭は、思想的にはやや民主派寄りだ。
いっぽう、後者の本土派は2010年代に生まれた急進派である。穏健な政治改革を求めた雨傘革命の失敗や、香港社会の嫌中ムードの高まりを背景に影響力を強めた。中国を「支那(ズィーナー)」と蔑称で呼んだり、一部の過激グループが街角で中国人の爆買い客を罵る活動をおこなうなど、ややヒステリックな側面があるが、昨年の立法会選挙で本土派系の「青年新政」に属する議員が2人当選するなど、若者を中心に一定の存在感を示しつつあった。
だが、この本土派も現在はいまいち低調だ。原因のひとつは、上記の両議員が昨年10月の就任宣誓の際に中国を「支那」呼ばわりし、議場に「香港は中国ではない」と書かれた幕を持ち込むなどの事件を起こしたことだ。結果、中国政府が政治介入をおこない、両議員の資格を剥奪。かえって香港の政治的な自治が損なわれる結果を生んだ。
「本土派の代表の立法会入りを喜んでいただけに、彼らの幼稚な行動には本当に失望しました。中央の介入を招いてクビになってしまったんです。香港の独立を存分に主張してほしかったのに、戦いの『入り口』でくだらないパフォーマンスをやったせいで、議員としては一言も発しないまま議席を失った。票を返してくれと言いたいですよ」
本土派の古参グループ・香港自治運動のメンバーであるヴィンセント・ラウは、青年新政の体たらくをそう嘆く。昨年前半まで、支持者の絶対数は少ないものの(おそらく香港住民の1割程度)着実に勢力を伸ばしてきた本土派は、この事件によって「気落ちした」「大きく打撃を受けた」という。
「ジョシュア・ウォンたちの政党『香港衆志(デモシスト)』は、若いけれど青年新政よりも成熟しています。彼らの政治的立場は民主派に近いので、私とは考えが異なりますが、頑張ってほしくはありますね」
とはいえ、香港の社会全体を政治への失望感が覆うなか、最後の期待の星である香港衆志の人気もそれほど高くはない。いっぽう、七一デモの当日、警官が香港衆志のメンバーに「俺が銃を抜かないとでも思っているのか?」と恫喝的な言動をおこなったり、民主派の社会民主連線の主席が警官に蹴られる様子が現地紙のカメラマンに撮影されるなど、中国政府の意向を受けた香港当局による圧迫は強まっている。
「雨傘革命以来、香港の警察は明確に暴力的になりました。2014年には公民党(民主派)の党員が警察にリンチされる事件がありましたし、去年の2月に旺角地区で騒乱があったときは、私のすぐ目の前で警察が威嚇発砲をおこないました。以前の香港ならあり得なかったことばかり起きています」(ヴィンセント)
2013年の習近平政権の成立と前後して、香港の中国化はいよいよ加速した感がある。今後の香港は普通選挙の導入どころか一国二制度の現状維持すらも危うく、中国に飲み込まれる未来しかない。それに抵抗する勢力は、民主派も本土派もいまいち勢いに欠け、打開策は見つからない――。現状はかなり厳しい。
中国の支配に違和感を持つ香港の人々は果たして「移民する」以外の打開策を見つけることができるだろうか。2047年までに残された時間は、もはや決して多くない。
写真=安田峰俊