文春オンライン

元SMAPの3人めぐって…公正取引委員会がジャニーズ事務所を「注意」した真意とは

杉本和行元公取委員長インタビュー #1

note

人材にも適用される独禁法

――独禁法は企業と企業の取引関係に対する法律です。これを芸能事務所と所属タレント個人といった企業と個人の関係に適用したことは、かなり大胆な発想の転換だったのではないですか?

杉本 そこは個人で働く人を「事業者」とみなした考え方で整理しています。おっしゃるように、かつては人が自分の労働を提供することに、独禁法を直接適用するには難しい面があるとの考えでした。ですから公正取引委員会は「働き方」について独禁法を適用することには消極的でした。

 ところが近年、フリーランサーのように労働契約以外の契約形態による労働者が増えてきて、副業を得て働く人も少なくないですよね。こうした方々は「人材」として、人材獲得をめぐる競争市場における事業者に当たると考えられます。ここに人材獲得をめぐる企業(発注者)と、技能や才能を提供する個人(受注者)の関係が発生し、力の強い使用者側の行為を独禁法は対象とする――ということになります。

ADVERTISEMENT

 

 こうした議論を行いまして、2018年2月に公取は「人材と競争政策に関する検討会」報告書を公表しました。

スポーツ界で働くスポーツ選手についても同様

――SMAP解散から約1年後のことですね。このレポートで示されたのが、まさに発注者による受注者への「移籍・独立を諦めさせる」「契約を一方的に更新する」「正当な報酬を支払わない」「他の発注者と取引ができないようにする」といった行為は独禁法上問題になるという点でした。

杉本 これはスポーツ界、スポーツ選手の働き方についても言えることなんです。例えばドラフト会議の指名を拒否した人が、海外のプロ球団と契約したら一定期間日本の球界に戻ってこられない、プレーできないというルールがありました。

――いわゆる「田沢ルール」と呼ばれるものですね。

杉本 これも一人の個別事業者に対する自由な働き方の阻害となっています。こういった問題点を各スポーツ団体に説明して、今、見直しが進んできているところです。繰り返しになりますが、公取は摘発して課徴金をかけることが主目的ではないのです。「経済の憲法」と呼ばれる独占禁止法の精神に照らして、是正すべきものに対してメッセージを発信し、企業のみならず、人々が自由で公正に働けるよう、環境整備をすることが目指すべき仕事。そう思って取り組んでいました。