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元SMAPの3人めぐって…公正取引委員会がジャニーズ事務所を「注意」した真意とは

杉本和行元公取委員長インタビュー #1

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グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルに対する問題行為の調査

――もう一つ、杉本さん時代の公取でスタートした大きな取り組みは、巨大IT企業「GAFA」(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に対する問題行為の調査です。デジタルプラットフォーム企業に対する公取の取り組みに先鞭をつけました。

杉本 その一つのアマゾンジャパンについては、出品者に対して「価格や品揃えにおいて、他のプラットフォームと比較してもっとも有利な条件で出品すること」という条件を付していることを問題としました。同様のことはアマゾンの電子書籍サービスについてもあったのですが、いずれも出品者に対して出品価格等を拘束することになりますから、独禁法違反のおそれがあります。当該事業者は是正措置を講じるということでしたので、そこで調査を終えました。

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日本と欧米の、スタンスの違い

――先ほどもおっしゃっていましたが、公取は摘発が主目的ではなく、あくまで市場秩序を維持するための注意喚起を促すことに役割があると強調されています。一方で欧米の市場当局は、非常に厳しい態度で独禁法違反に臨んでいます。その最たるものが対GAFAの制裁です。どうして日本と欧米では、こんなにもスタンスが違うんでしょうか。

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杉本 たしかに欧米の独禁法違反に対する規範意識は、日本とは比べ物にならないほど強いものがあります。厳罰をもって処するというのが普通で、ヨーロッパでは制裁金、アメリカでは罰金が課され、その額も日本の水準からすると1桁、ややもすると2桁違う。これまで3回出されている欧州委員会によるグーグルに対する違反行為措置は、日本円にして合計1兆円を超える制裁金です。

 アメリカの連邦取引委員会も、2020年12月にフェイスブックを独禁法違反で提訴しましたよね。インスタグラムの事業分割など厳しい是正措置を求めるものです。これらにはやはり、自由・公正というものに対する意識の違いが根っこにあるんでしょう。

 

――談合やカルテルについても、欧米は厳罰主義ですね。

杉本 逆に日本では談合やカルテルについて「企業が仲良くやっているのに、どこが悪いんだ」という意識が昔から根強い。聖徳太子の「和を以て貴しとなす」の文化でしょうか。しかし、これでは特定の企業群によってその市場が支配されてしまい、競争の起きないムラ社会が発生してしまいます。

 やる気のある、イノベーションの気概を持った業者が新規参入できる自由・公正な土壌がなくなってしまうわけです。巨大企業による寡占・独占にも同じことが言えるわけですが、日本には「競争よりも安住」を良しとする風土があるようで、まだまだ欧米並みの感覚は持てないのだと思います。安住していては、イノベーションは生まれません。